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    「付加価値の循環運動」は本物か/トヨタの2017春闘

     トヨタ自動車が、その突出した利益から日本の賃上げ水準を決めるようになって20年ほどになる。トヨタ労組の17春闘の方針案にはこれまでにない「表」が掲載されている。

     全トヨタ労連(315労組、約34万人)の賃上げ比較表である。14、15、16春闘で、トヨタ労組以上の回答を獲得した組合数などが示されている。たとえば16春闘(製造部門)では、トヨタ労組が1500円を獲得したが、それ以上獲得した組合は前年までのゼロから一気に32労組になった。豊田鉄工の1600円をはじめ、デンソー、アイシンがトヨタと並ぶ1500円だった。確かにこんなことはこれまでになかった。

     

    ●利益独り占めの是正を

     

     自動車総連は、16春闘から自動車産業全体の底上げをめざす「付加価値のWIN‐WIN最適循環運動」を3年がかりで始めた。自動車は、約3万点の部品からなる裾野の広い産業であり、トヨタだけでも関連・下請け・取引先は2万9315社(帝国データバンク調査)にもなる。

     しかし、付加価値=利益はトヨタなどメーカーが独り占めしてきたといわれるほどだ。下請けは、「賃上げの余力があるのなら単価を切り下げよと言われる」(JAM元幹部)というのが実態だった。

     トヨタは、14年3月期決算から3年連続で2兆円を超える営業利益をあげた。トヨタは年2回、1%程度の下請け単価の切り下げ要請をしてきたが、さすがに14年度下期、15年度上期は要請を見送ったという。

     中日新聞は、トヨタが16春闘のさなかに要請を再開したことについて社説で、「下請け企業から賃上げへの余力をも奪う」(16年3月4日付)と痛烈に批判した。全トヨタ労連内の小企業約80社の平均獲得額は、861円にすぎない。

     

    ●問われる意気込み

     

     部品など自動車関連のメーカー労組も多いJAMは、16春闘で517労組が平均1346円の賃上げを獲得した。しかし、3分の2の企業で人材不足が経営に影響を与えており、今春闘では、取引関係を適正化し、付加価値を確保して賃金引き上げを求めていくという。ものづくり産業の維持にとって人材確保は待ったなしであり、業界の賃金水準引き上げを目指す個別賃金要求にも挑戦する(ベア6000円も掲げる)考えだ。

     こうした危機感が金属産業の大手労組にあるのかどうか。

     昨年から自動車総連は、賃金の底上げで一定の成果を出しているが、気になるのはトヨタ労組の最近の意気込みだ。この3年間の獲得額は2700円(14年)、4000円(15年)、1500円(16年)であり、17春闘の要求も昨年並みの3000円となる見通し(2月に正式決定)である。2002~13年までの12回の春闘では、ベアゼロや要求をしなかったのが9回、獲得した3回はわずか1000円に終わっている。その時代よりは少しましになったという水準でしかない。

     トヨタ労組が自らを〃リーダーユニオン〃と位置付けているのであれば、それにふさわしい大幅賃上げと、下請け労使を激励することが求められる。日本の労働者の実質賃金は、1997年をピークに下がり続け、この3年間で年額17万5000円も減った。リーダーユニオンとして底上げと大幅賃上げを実現することは、トヨタの突出した利益からは可能なはずだ。(ジャーナリスト 柿野みのる)