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    〈過労死防止学会の論議から〉(1)/納期、発注の改善を/過酷な長時間労働のIT業界

     過酷な労働実態から「新3K」とも称されるIT業界。その背景に、納期など発注の問題があると、当事者らが指摘した。残業の上限規制と併せて取り組まなければならない課題だ。

     「息子と私の幸せな人生の終えんだった」。西垣迪世さんは、富士通の子会社でシステムエンジニアとして働いていた一人息子の和哉さん(享年27)の突然の死をこう語った。

     和哉さんは月150時間を超える時間外労働の末、うつ病を発症。2度目の復職から2カ月後の2006年1月、治療薬の過量服用で帰らぬ人となった。5年後に労災と認定された。

     1度目の休職直前の03年9月、同社作成の勤務月報では、9時に出勤し、退勤は32時30分(翌日午前8時30分)、その30分後の9時に再び勤務を開始し、22時近くに退勤した記録もある。同社では終電を逃し、パイプ椅子を三つ並べて寝たり、女性でも段ボールを床に敷いて寝ることが日常茶飯事だったという。

     迪世さんは裁判を通じ「度重なる仕様変更があったのに納期は変わらず、増員も労務管理もされていなかった」と知る。36協定の時間外労働の上限は年960時間だった。

     和哉さんの元同僚、木谷晋輔さんも3カ月で400時間にも及ぶ時間外労働でうつ病を患った。当時同社では不具合である「バグ」の発生率が50%にも及び、対応に昼夜追われた。長時間労働をなくすには「人を増やすだけではだめ。適切な納期設定が必要。追加の作業が発生すれば追加の納期を」と語った。

     

    ●業界全体の取り組みを

     

     NTTやKDDIなどの労組でつくる情報労連の北野眞一政策局長は「テープカットの日時だけを決めてさまざまな(工程の)納期を(逆算して)設定する。納期絶対主義をやめなければならない」と強調した。

     特に下請けにしわ寄せが及びがちな発注方法が、元請けに丸投げする一括契約。重層的下請け構造の下で大手が利益を確保し、下請けにつけを回す仕組みだ。これに対し、工程ごとに発注する「多段階契約」は、納期や費用の面で齟齬(そご)が少ない。国も推奨しているが、同労連がIT企業に毎年実施している「ソフトワーカー調査」でも採用はまだ3割程度にとどまる。

     北野氏は「多段階契約」が必要と述べた上で、「大手IT企業は働き方改革を進める一方で、そのしわ寄せが下請けや取引先に及んでいる。業界全体の取り組みが必要だ」。取り引きの改革がない限り「残業の数値目標を決めても隠れ残業が増えかねない」との懸念を示した。