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    沖縄レポート/大田昌秀氏が体現したもの/基地県外移設論が持つ意味

     6月12日、大田昌秀元沖縄県知事が亡くなった。満92歳の誕生日だった。10代の学徒が超法規的に戦場動員された沖縄戦で、大田氏は鉄血勤皇隊の一員として九死に一生を得た。その体験から戦後、沖縄戦、ジャーナリズム、民衆思想を研究する。そして1990年、沖縄の民意を背負って日米両政府に対峙(たいじ)すべく県知事になる。行政の責任者として「現実」と向き合わざるを得ず、そのために批判も受けなければならなかった。

     

    ●壁は日米同盟だけか

     

     戦争体験者であり学者で政治家であった大田氏のような人はもう出ないだろう。辺野古新基地問題で翁長雄志知事が苦悩の中にある時に、その死が県民にさまざまな思いを抱かせたのは当然のことであろう。最初の公選主席・知事、屋良朝苗氏、「沖縄の心」を保守政治家として体現し知事を3期務めた西銘順治氏に続き、3人目の県民葬が行われることになった。

     「平和の礎(いしじ)」建設など業績は多いが、やんばるの森を切り開く林道建設や新石垣空港問題など環境問題では批判された。2015年までに全米軍基地の返還を目指す基地返還アクションプログラムは両政府に無視された。基地問題に関しては、その後の知事も含めて実質的成果はないに等しい。それだけ日米同盟の厚い壁に阻まれてきたということだ。

     しかし、壁は日米両政府だけだっただろうか。大田氏は「日米安保が重要だというのなら、全国で基地を引き取るべきだ」という主張を最初にした知事だった。これは県外移設論、基地引き取り論として今も議論が続く。

     

    ●本土の当事者意識とは

     

     大田氏の死去から間もない16日、全国で基地引き取り運動をする市民団体「全国基地引き取り緊急連絡会」が記者会見で、沖縄以外の46都道府県知事へのアンケート結果を発表した。

     沖縄の地元2紙は〈沖縄基地負担 全知事アンケート/「全国で」わずか1人〉(琉球新報)、〈基地「応分負担」は1県/市民団体調査/「当事者意識欠く」〉(沖縄タイムス)と報じた。「日本全体で分かち合うべきだ」と答えたのは広瀬勝貞大分県知事だけ。42道府県知事が回答し、「国の専管事項」など無責任な意見が多かった。

     会見で同連絡会メンバーは「判断を国に丸投げする姿勢は、当事者意識を欠いた本土の有権者の態度の反映だ」と指摘した。

     大田氏の92年の生涯を振り返り、沖縄県の歴代知事の苦悩と沖縄の葛藤を思う時、このアンケートは「本土」に住む「あなた」や「私」一人一人に向けられていると考えてみるべきではないだろうか。(ジャーナリスト 米倉外昭)