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    〈インタビュー/RCEPの現状〉・下/途上国を脅かす日本の罪/アジア太平洋資料センター 内田聖子代表理事

    ●どの国がRCEP交渉を引っ張っているのですか?メディアでは中国だといわれていますが。

     

     「TPPは米国主導。RCEPは中国主導」といわれますが、そんな単純な話ではありません。今までのところ、中国がけん引している気配は感じません。インドが重要な存在であり、けん引という点ではむしろ日本だと思います。

     確かに中国は「一帯一路」政策(※)の中にRCEPを位置付けており、積極的になってきた側面はあるでしょう。例えば、電子商取引の分野です。中国でネット通販などを手がける大手のアリババは人工知能(AI)や、インターネットを介したクラウドシステムの開発にも力を入れています。一方で、中国には多くの規制が存在し、中央と地方でルールが違うという国内事情もあります。国有企業をどうするかも不明で、これが弱み。一気に是正するのは困難で、中国が交渉をリードしているとはいえません。

     

    ●16カ国の力関係はどうなっているのですか?

     

     ASEAN諸国はおおむね結束しています。この地域の平和と安定を守ろうという共通の意思があります。

     TPP交渉に参加していた日本、オーストラリア、ニュージーランドの3カ国と、韓米FTA(自由貿易協定)を持つ韓国の合計4国は「有害グループ」。問題の多いTPPなどの水準をRCEPに持ち込んできた国々です。

     その他に、インド、中国という大国があり、四つの大きな塊があると見ています。特にインドがいろんな意味でキャスチングボートを握っています。

     

    ●日本はどう関わるべきでしょうか?

     

     まず、途上国から最も忌み嫌われている国が日本なのだという事実を直視することです。TPPの時には「(農産物関税などで)米国から攻められる日本」でした。でも、RCEPでは日本の食の安全・安心や農業がダメージを受けるとは必ずしも指摘しにくい。逆に「アジア諸国を攻める日本」になっているのが実態です。日本は途上国の市民社会から批判されており、そのことを私たちは考える必要があるでしょう。

     国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」に照らして考えてみたい。医薬品へのアクセス、水、教育、そして持続可能な開発。これらを広く保障していこうという国連の取り組みです。日本は先進国としてそれを支援していく責任があります。

     今の日本のやり方はTPPルールの押し付けであり、国連の開発目標と矛盾するのではないでしょうか。

     RCEPについて考えるとき、日本はアジア太平洋を平和で安定的な地域にする方向で、どんな貿易ルールがいいのかを提案していくべきです。政策を担当する人たちやメディアの人々を含めて、考えてほしいと思います。

     

    〈用語解説〉一帯一路

     

     中国の習近平国家主席が2013年に提唱した経済圏構想。一帯は中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパにつながる「シルクロード経済ベルト」。一路は中国沿岸部から東南アジアやインド、アフリカ東岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」を指します。関係国に対し、インフラ投資や融資を行い、市場拡大を図るのが目的といわれます。