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    高プロ制の危険どう伝えるか?/国会パブリックビューイング/上西充子法政大学教授らが模索

     6月に成立した働き方改革関連法。高収入の専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」(高プロ制)は来年4月の施行に向け、労働政策審議会で省令づくりの議論が始まった。とはいえ、高プロ制の危険は十分に知られておらず、問題点をより広く伝えようとする試みが各地で続いている。その一つが、上西充子法政大学教授らによる「国会パブリックビューイング(国会PV)」だ。

     

    ●「無関心層」を対象に

     

     主にインターネットのニュースサイトで高プロ制を批判していた上西教授が「どうすればこの問題を広く世の中に伝えられるだろうか」と考えたのがきっかけ。

     ニュースサイトへの記事投稿では、ある程度以上には広まらないことに気付いた。高プロ制は多くの労働者に関わる問題なのに、関心がある人はわずか。新聞記事も読まず、政治にあまり触れる機会がない人に届くものはなにかと考え、たどり着いたのが、働き方改革関連法の国会質疑動画を編集し上映することだった。国会PVである。

     インターネット中継された「働き方改革」をめぐる国会の映像から、大事な問題に答えず延々と同じ答弁を繰り返したり、論点をすりかえたりする場面に焦点を当てた。ネット映像の編集技術を持つ人や、街頭宣伝の経験のある有志を募り、動画を作成した。それを街頭で大きなパネルに映し出した。

     

    ●気付きを手助けする

     

     上西教授によると、演説などを日頃聞く機会がない人は野党議員や市民団体が街頭で政府批判をすると、かえって「自分には関係ないこと」と敬遠し、通り過ぎてしまう傾向があるという。そのため国会PVでは、国会中継の映像に解説を加えただけの内容にした。「危険」「反対」という主張を強調せず、まずは立ち止まってもらうことを重視した。

     高プロ制について政府は「柔軟な働き方ができます」などと広報している。すでにそうした先入観がある人に制度の問題点を伝えるのは容易ではない。「反対」をアピールするだけでは届かない。「高プロ制が導入されたらどうなるのか」「ひょっとしたら自分にも関係がある問題かもしれない」と気付いてもらえるかどうか。話題や語り口についても工夫が必要という。

     回を重ねる中で工夫もこらしている。当初は映像を流しながらマイクで解説する街頭宣伝の形を取ったが、現在は国会質疑の要所要所に解説をはさむ映像を作成して流している。ニュース番組風の体裁にすることで、以前より足を止める人が多くなったという。国会PV終了後には立ち止まった人数を含めて検証し、次回に生かすようにしている。

     宣伝活動について上西教授は「無関心層が対象なのか、ある程度知識と関心がある人が対象なのかをはっきりさせることが大事」と語っている。

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     上西教授が解説を加えた国会パブリックビューイングの動画は無料提供されており、ダウンロードも可能。労働組合の勉強会や街頭宣伝でも使用することができる。映像機器を使った動画の流し方についてもホームページ(https://www65.atwiki.jp/kokkai_publicviewing/pages/1.html)で解説している。

     

    〈写真〉上西教授らが作成した映像の一部