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    インタビュー/〈100周年迎えるILO〉(1)/グローバル化社会で真価発揮へ/郷野晶子労働者側理事に聞く

     

     今年は国際労働機関(ILO)の設立から100年となる節目の年。これまでワークルールの国際基準を設定し、世界に広げる役割を果たしてきた。ILOは日本の労働組合・労働者にとって必ずしも身近な存在とはいえないものの、グローバル経済が進展する今日だからこそILOの必要性は一層高まっているように見える。100年を迎え、その存在意義と役割は何なのか、郷野晶子労働者側理事に話を聞いた。

     

    世界平和の実現が目的/ILOはなぜ設立されたのか

    (1)ILOはどうして設立されたのでしょうか。その背景は何ですか?

     

     第1次世界大戦の反省から生まれました。ILO憲章の前文にはこう書かれています。

     「世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができる」

     つまり、公平な労働条件と社会正義なくして平和は実現できないということです。

     1919年1月に大戦の講和会議が始まります。この時すでに世界の雇用条件を調査した上で、各国にどう影響を及ぼすかが話し合われ、国際労働立法委員会を設立し、国際連盟と連携した常設機関の設置を求めていくことが決定されました。同年6月に締結されたベルサイユ平和条約では、第13編が「労働」問題に当てられました。これがILO憲章のベースになっていくのです。

     10月にはワシントンで第1回総会を開催。労働搾取をなくして労働条件を向上させること、革命などの社会不安が起きないよう対処すること、労務コストを国際競争から除外することがアピールされました。

     

    ●労務コスト競争を否定

     

     こうした流れは、第1次大戦で突然出てきたものではありません。ILO設立に至る前史があるのです。

     19世紀に英国のロバート・オーエンやフランスのダニエル・ルグランら実業家が国際的な労働条件規制の必要性について発言していました。

     実業家にもキリスト教による人道主義の影響や、過酷な労働条件では生産継続さえ困難になるという事情もあったのでしょう。

     その時代は産業革命が起きて、劣悪な労働条件が横行。当時の文献によると、1830年代には年3300~3400時間も働かせていたといいます。ルグランは、せめて1日12時間に規制しようと要求しましたが、それを実現するには個々の実業家だけでは無理で、国際的な枠組みが必要になります。

     そして、労務コストを下げて国際競争をしてはいけないし、国際競争から除外すべきという考え方が広まるなかで、1900年に国際労働立法会議が開催されます。米国やオランダ、ベルギーなど6カ国が参加し、国際労働立法協会を経てILO設立へとつながっていったのです。

     

     プロフィール ごうの・あきこ 1981年、ゼンセン同盟書記局入局。1998年、国際繊維被服皮革労組同盟(TWARO)アジア太平洋地域組織書記長。2012年、UAゼンセン国際局長。2016年、インダストリオール・グローバルユニオン日本加盟組織協議会事務局長(現職)。同連合参与(現職)。2017年、ILO理事(現職)