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    労働時評/中小・最低賃金では前進も/19春闘総括の評価と課題

     2019春闘が総括シーズンを迎えた。連合春闘では、実質賃金がマイナスとなりつつも、中小労組の健闘が目立つ。全労連は全国一律最低賃金制の確立をめざす運動の前進を評価した。多彩な「働き方」改善も春闘の特徴である。

     

    ●実質賃金確保へ要望も

     

     連合が6月の中央委員会で確認した春闘中間まとめは昨年を上回る回答について「賃上げの流れは力強く継続している」と評価。中小のベア率が大手を上回ったことも「大手追従・大手準拠などの構造を転換する運動が定着・前進した」と指摘し、人手不足が後押ししたとの認識も示した。

     6月4日現在の回答結果は平均賃上げで6043円(2・08%)と昨年実績プラス54円(同率)。ベアは1558円(0・56%)で昨年比マイナス48円、プラス0・03%となった。

     特徴は、300人未満のベアが0・63%(1507円)で、300人以上の0・55%(1563円)を3年連続で上回り、100人未満がベア額、率で最も高いことだ。

     今後の検討課題は、「賃金水準検討プロジェクトチーム」の答申も踏まえ(1)情報収集・開示の強化と広がりを持った春闘への共闘体制・行動のあり方(2)中小組合のサポート(3)社会横断的な賃金水準(4)セーフティーネットとしての最低賃金のあり方――など。

     中央委では、「連合は賃金水準のみでなく、賃金の上げ幅重視の運動を」(基幹労連)、「実質経済成長分と物価分を確保する実質賃金向上の運動を強め、公正取引の強化も」(JAM)などの意見が出た。

     問題は回答水準である。ベア0・56%程度では物価上昇分以下の実質賃金マイナスとなり、3年連続の賃金デフレだ。神津里季生会長は「要求は物価分の2%プラス定昇2%の4%であり、結果がついてこないという事態を変えなければならない」と述べている。

     連合では、金属大手が連合方針より低い要求設定やトヨタの回答非公開など、大企業労組の社会的責任も問われている。

     

    ●協約拡張で横断的賃金へ

     

     「春闘の形を再構築する」として連合が提起した「上げ幅のみならず賃金水準」への転換へ、足掛かりとなる春闘と位置づけられたが、個別賃金の妥結水準を含め課題を残した。

     回答結果は、35歳のベア額で1851円(0・67%)、昨年マイナス114円(マイナス0・04ポイント)に過ぎない。まとめでは水準重視の「認識がより高まった」と評価しつつも、個別賃金実態の把握・分析のための必要な体制を取れない組合もあったと指摘。賃金制度の確立や中小組合への支援体制の構築などを提起している。

     しかし、個別賃金に取り組む組合は、連合46産別のうち10産別と少ない。賃金水準重視といいながら、ベア獲得は要求組合の38・1%であり、組合のベア獲得と社会への波及も大きな課題だ。

     欧州では産別労使交渉で横断的賃金を形成し波及させているが、日本では賃金水準も交渉も分断された企業別交渉という弱点がある。今後の運動方向を示す「連合ビジョン」が労働協約の拡張適用を提起し、関連業種・地域の未組織労働者の賃金改善を目指していることも注目される。

     

    ●全労連は最賃運動評価

     

     全労連などの春闘共闘は6月20日の単産・地方代表者会議で春闘の中間総括を行い、回答について「昨年を若干下回る結果だが、財界・大企業の春闘破壊が強まるなか、善戦健闘」と評価。ストを背景にした団交や官民の地域総行動などの前進を挙げた。回答結果(5月24日)は加重平均で6001円(2・04%)と、昨年より138円、0・06%低い。

     課題では「集中行動ですべての組織が立ち上がっている状況にない」と運動のばらつきも指摘。生計費に基づく要求とストを背景にした団交、産別や全労連の統一闘争への結集など「職場、地域からの原則的な闘いの再構築」と組織の強化拡大などを提起している。

     討論では、医労連、JMITUなどが統一ストを背景に勝ち取った回答や、福岡などから全国一律最賃制の運動前進が報告された。

     総括の特徴は、最賃運動の前進を大きく評価したことだ。現行地域最賃の格差是正だけでなく、「全国一律最賃制をめぐり変化を生みだしている」と分析している。全労連や医労連、生協労連が議員要請や自民党を含む各党への要請を実施。地方では山形県や前福井県知事が地域格差是正と全国一律最賃を求め、自治体の意見書採択も276自治体に上っている。

     最低生計費調査も札幌市から鹿児島市まで全国19道府県で実施し、時給約1500円の全国一律最賃の根拠を提示した。「めざす全国一律最賃制のイメージ」も7月の評議員会で提起する方針である。

     最賃引き上げは格差・貧困打開へ向け政府、自治体、財界、政党などで新たな動きが始まり、労働界の運動が注目されている。

     

    ●働き方改善も多彩

     

     働き方改善でも多彩な成果を上げている。

     連合集計(6月7日)では、「長時間労働の是正」で労働時間管理・適正把握が349組合、「非正規労働者の処遇改善」では「正社員への転換」332組合、男女平等の課題では「ハラスメント対策へ労使協議」が208組合など、9課題32項目で延べ8434組合が成果を上げている。

     全労連は労働時間短縮、雇用保障など7課題28項目で、14産別325組合が延べ604件の成果を得た。「有給休暇5日取得の社員に年間5万円支給」(民放労連)など、多彩な処遇改善が特徴だ。(ジャーナリスト・鹿田勝一)