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    〈雇用類似の現場で〉(1)/「けがは自分持ち」今も/スタントマンの失明事故/ジャーナリスト 北健一

     民放キー局が制作、放送したドラマのリハーサルでのことだった。鉄芯をラバーで包んだ模擬刀で突かれ、スタントマンの男性(30代)は左目の光を失った。

     テレビ局が仕切る現場での「もらい事故」だったが、男性の労災申請に対する管轄の三田労働基準監督署の答えは「不支給」。理由は、「労働者性がない(男性が雇用されていない)」だった。

     

    ●俳優の多数は低年収

     

     男性はアクション監督に声をかけられて就労。「ギャラは局と交渉して」と言われ、実際、報酬はテレビ局から彼の口座に振り込まれている。

     それでもテレビ局は、スタントマンとは契約しておらず、演出はアクション監督に任せていたとして労災認定に協力せず、突き放した。労基署の不支給決定は、それを追認した格好だ。

     「けがと弁当は自分持ち」。労災保険制度ができる前の「古い常識」が、一見華やかなテレビ番組制作の現場にまかり通っている。

     男性は労基署に審査請求(異議の申し立て)をしている。男性を支援する、アクション俳優で日本俳優連合(日俳連)理事も務める高瀬将嗣さんは「日俳連が働きかけ、芸能実演家との契約が雇用ではなくても、労働者性が認められる場合には労災保険に加入しましょうと呼びかけるリーフレットを、厚生労働省に出してもらいました。今回の不支給決定は、その趣旨にも反します」と怒る。

     テレビドラマに出演する俳優はギャラも高いから労災保険で守られなくても大丈夫では? 高瀬さんにそう聞くと「よくある誤解です。日本芸能実演家団体協議会(芸団協)の直近の調査では、過半数の俳優が、俳優業からの収入が200万円未満でした。みんなガードマンや宅配、ポスティングなどのアルバイトで糊口(ここう)をしのいでいるのです」と返ってきた。

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     6月28日、現行の法制度上は雇用には当たらないが、それに近い形で働いている人の権利や保護の問題を検討してきた厚生労働省の「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」(座長・鎌田耕一東洋大学名誉教授)が中間整理を公表した。「仕事上の負傷や疾病」は労働政策審議会に場を移し、労災保険特別加入の対象拡大などを検討する見込みだ。

     ノールールと無保護が続いてきた「雇われない働き方」は、これからどうなるのか。現場から課題を探る。