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    〈働く現場から〉/再びウーバーイーツの青年と/ジャーナリスト 東海林智

     前回の本稿(11月26日付)で、個人請負で料理宅配サービスのウーバーイーツで働く若者のことを書いた。彼は、ウーバーで働く人が増え、収入が減ったことを嘆きつつも、「冬になれば寒いから働く人も減り、収入が増えるかも知れない」と期待をかけていた。だが、本格的な冬を前に、彼の期待はもろくも崩れることになった。

     会社は11月29日から、東京、千葉、埼玉で働く配達員の基本報酬の引き下げを打ち出した。店から商品を受け取った時の「受け取り料」を300円から265円に、注文者に商品を渡した際の「受け渡し料」を170円から125円に、店から配達先までの距離に応じて受け取る「距離報酬」を1キロメートル当たり150円から60円に引き下げるという内容だ。

     12%から最大60%近い引き下げである。同社は11月20日、配達員にメール一本で通知した。これだけ大きな労働条件の変更が、こんなに簡単にやられるのだ。「まるで大企業と中小企業の関係だ」――自動車部品製造の中小企業労組役員は、ふとこんな感想を漏らした。円高や円安に一喜一憂し、「協力金」名目で、一方的に大企業から下請け代金の値引きを経験してきた役員には、そんなふうに見えるという。

     実際、労働者ならば60%もの賃下げを、同意なしに一方的にやられることはあまりない。

     

    ●報酬引き下げに怒り?

     

     彼に連絡を取ってみた。忙しく働いているのだろう、フェイスブック経由で返事が返ってくるまで、2日間かかった。彼の仕事のサイクルでは仕事が一段落する午後2時半に待ち合わせ、話を聞いた。案の定怒ってはいた。だが、よく聞くと、会社への怒りはそれほどでもなかった。彼は「確かに今回の値下げはひどい。自分の収入も2割以上減るのかな」と口をとがらせた。

     とはいえ、こんなことも言う。「会社の取り分である手数料も3割から1割に減らしたから配達員にだけ損を押しつけているわけじゃないと思う。事業自体が成り立たなくなったら仕方ないじゃない」

     意外や会社の肩を持つ。そして、右目の眉をピクリとあげて言った。「組合なんか作っている奴がいるからこんな迷惑を被るんだ。『あいつらが暴れるせいで会社がダメージを受けて取り分が減る』って友達が言ってた」。労働者としての彼を見て、付き合ってきたが、本当に中小の自営業者ではないかと錯覚しそうになった。

     

    ●気になる経営者目線

     

     彼に聞いた。「本当に会社は今回の引き下げで痛い思いをするのかなあ。手数料が減っても、配達員の賃下げの分が利益になるから、会社は損はしないんでないの。そもそも、なんで配達員の賃金下げるのか説明ないでしょ」。彼は「会社は『価格の見直し』って。いっぱい運べばプレミアが付くからもらう金は変わらないんだって」と答えた。でも、確信はないのか、目はオドオドしているように見えた。

     彼の口調や主張から労働組合を良く思っていないのは伝わってきた。なぜなのか、聞いてみた。彼は説明会の時に「皆さんは自営業者ですって言われた。それなのに、労働者の権利とか言ってもしょうがない。自分の力と才覚で稼ぐもんでしょ。彼らは甘ったれている」と強い口調で言った。

     彼の心に少し触れたような気がした。もう一つ、「それじゃ、同じ配達員のことをどう思う」と聞いてみた。彼はきっぱり言った。「仲間じゃない。仕事を奪い合う相手だ」

     彼にとって同じ仕事で働く者は仲間ではなく競合相手なのだ。(この項続く)