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    〈雇用類似の現場から〉(5)/委託だから解雇ではない?/朝日放送ラジオスタッフ/ジャーナリスト 北健一

     ラジオニュースの原稿づくりには、新聞ともテレビとも違う難しさがある。新聞は字数が多く、読み返せる。テレビは映像があり、テロップも使える。2~5分のラジオニュースは音声だけで事実を正確に伝えなければならない。

     例えば「工場からしゅっかしました」だと、出荷か出火かわからない。吉岡雅史さんはABC朝日放送ラジオニュース班で、ラジオニュースの原稿を作るリライターとして働いてきた。最初は直用で、その後派遣に。派遣会社で賃金遅配などのトラブルがあり、ABCの担当部長(当時)Tさんに相談すると「会社を作ればいい」と勧められた。

     吉岡さんら5人の「会社」に実体はなかった。24時間を3交代でABCに出勤し、ラジオニュースを支えてきた。働き方はABCの社員と変わらない。

     

    ●府労委に救済申し立て

     

     派遣法改正で特定派遣がなくなると、ABCはいったん業務請負を提案しながら、「ホールディングス化に伴って契約を終了する」と吉岡さんらに通告。吉岡さんによると、ABCの報道局長(現取締役)は「長年の貢献に鑑み、できる限りのことはする」と請け合ったが、何もしないまま解約の日が迫る。

     吉岡さんらは朝日放送ラジオ・スタッフユニオン(民放労連加盟)を結成し、18年3月団交を申し込むがABCは即日拒否。組合が大阪府労働委員会に救済を申し立てると、ABCは「組合員が働いた旧朝日放送は(ホールディングス化と分社化によって)もう存在しない。よって申し立てそのものが無効」と主張した。

     ABCが吉岡さんらの「会社」に振り込んだ金は、わずかの経費を引いてほぼ全額5人に分配されており、吉岡さんらは労務提供の代価をABCから受け取っていたと考えるのが自然だ。

     

    ●業務委託は形だけ

     

     従業員に会社を作らせて、雇用を「会社間の業務委託」などに形だけ置き換え、「会社間契約」を切ることでクビにする手口が許されるなら、労働契約法16条や19条、解雇権乱用法理の脱法というほかはない。

     会社作りを勧めたT元部長は今もABCで働くが、組合側証人を快諾した。大丈夫ですかと吉岡さんがラインで尋ねると、すぐ、「義を見てなさざるは勇なきなり」と返ってきた。言葉通りにTさんは、府労委で証言に立った。

     これに対し、お茶の間に親しまれる番組を届けてきたテレビ・ラジオ局にとっての「義」とは何なのか。