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    労働時評/転機招く金属大手回答/経団連は「自社型春闘」評価

     2020春闘は、消費増税など景気後退の影響で賃上げは7年ぶりに2%割れとなりそうだ。トヨタがベアゼロで、電機で初めて妥結がばらつくなど回答は分散。一方、統一闘争で善戦する組合もある。経団連は多様な処遇の「自社型春闘」を評価している。春闘の転機となる大手回答の特徴と課題を検証する。

     

    ●7年ぶりの2%割れ

     

     連合の回答集計(3月19日)は昨年比595円減の5880円(1・94%)で、7年ぶりに2%割れとなっている。ベアは1407円(0・45%)である。

     規模別では300人以上の1406円(0・45%)に対し、300人未満は1428円(0・58%)で獲得額、率とも大手を上回っているのが特徴だ。

     連合の神津里季生会長は13日の会見で「要求との隔たりはあるが、14年以降の賃上げの流れは引き継いでいる。中小が大手の賃上げ率を上回り、分配構造転換の趣旨にかなう回答」と評価した。

     検討課題も多い。第1は、ベア水準は0・45%で過年度物価上昇分(0・6%)以下となり実質賃金はマイナス。個人消費拡大には程遠い水準だ。

     第2は、今春闘で初めて掲げた「分配構造の転換」でも課題を残した。大手と中小間だけでなく、労使の分配構造転換も重要課題だ。株主配当や内部留保増の半面、労働分配率は50・4%に低下。神津会長も「大手組合も頑張ってもらいたい」と話す。

     第3は、産別や単組の分散回答が拡大したこと。産別自決・単組自決でなく、金属大手を含む連合の共闘強化が問われている。

     

    ●トヨタ回答七つの問題

     

     トヨタの7年ぶりのベアゼロ回答は、今春闘の変容を象徴する結果だ。

     純利益24%増の高収益なのに昨年より2100円低い8600円。同社は「賃金制度改善分は含めない」とベアゼロを公言した。

     第1は、高収益でのベアゼロであり、厳しい中でベア獲得を目指す多くの組合に悪影響を与えている。

     第2は、会社は「高い水準にある賃金をこれ以上引き上げると競争力を失う」と強調。今後もベアつぶしを狙う。組合の存在さえ問われかねない事態だ。

     第3は、回答の定昇(推定7300円)を超える分に定年後再雇用者やパートの時給増を含むとされていること。正規をベアゼロにして非正規に回しても会社の懐は痛まず、労働者間の配分の奪い合いの問題とされかねない。

     第4は、一時金6・5カ月(242万円)の満額回答だ。中小との所得格差は拡大。一時金の一部をベアに回し、賃上げ相場の波及を拡大することが、大手労使の社会的責任だろう。

     第5は、組合はベアに関わる基準給にも人事考課の格差配分を提案した。会社の人事査定による賃金格差拡大となり、職場には「組合がやることか」などの不満もあるという。

     第6は、トヨタ労使は18年に回答を非公開とし、19年から定昇・ベア・手当を隠し始めた。ベア非公開は他組合へも拡大している。回答内容は公開すべきだ。

     第7は、経団連は一昨年からトヨタ回答を多様な処遇の自社型春闘だとして評価している。春闘の社会的役割というトヨタ労使の責任が問われている。

     

    ●電機は初の分散回答

     

     電機連合は58年以降の産別統一闘争で初めて大きなベア分散回答が出された。

     経営側は「賃金でなく多様な処遇で個別労使の柔軟な決定」を主張、電機も初めて「妥結の柔軟性」を確認した。昨年同水準の千円に「以上」を付ける異例の歯止め基準を設定し、妥結は分散した。

     回答内容は(1)ベア1500円(日立、シャープ)(2)1400円(村田製作所)(3)千円(三菱電機、富士通など7労組)。柔軟な対応を選んだパナソニックは千円だが、一部は確定拠出年金掛け金(報道でベア500円)。NECも千円だが、福利厚生500円のポイントを含む。東芝は1300円で、語学習得に使える社内ポイント(300円)を含むという。

     検討課題として(1)ベアは千円~1500円とばらつき、統一闘争の評価をどうするのか(2)賃金に福利厚生、人材育成など性質の異なる処遇を合算していいのか――が問題となろう。

     金属産業では、基幹労連の日本製鉄など鉄鋼3社が生産設備削減などで7年ぶりにベアゼロ。JAMは産別統一闘争を重視し、中小では善戦している。

     金属労協は回答50組合のうちベア獲得は38組合に減少し、共闘の再構築が課題となっている。

     

    ●昨年以上へUAゼンセン

     

     UAゼンセンは産別統一闘争を重視し、昨年を上回る賃上げ水準を獲得した。ベア(3月12日)は2159円(0・76%)で、昨年比468円プラス。過年度物価分以上で実質賃金を確保している。

     新型コロナウイルス禍と交渉を分離し、「昨年を上回る回答」を目指し、満額獲得組合もある。「社会的役割を果たす回答水準」と評価している。

     

    ●経団連は春闘変容を評価

     

     経団連の中西宏明会長は「各企業労使が多様な選択肢の中から自社に適した総合的な処遇改善として評価する」と、脱ベア・自社型春闘で相場破壊を推進。「全社員の一律的な賃金は適さない」として査定賃金を推奨している。

     全労連は「大企業でベアゼロ回答が相次ぐなか、春闘要求の実現こそが困難打開の道」として、ストを背景にした統一行動や内部留保の社会的還元を重視。昨年同水準をほぼ確保した。

     後半戦。大手に追随しない中小春闘の奮闘と支援強化が求められる。(ジャーナリスト・鹿田勝一)