「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    レポート〈医療現場のリアル〉下/悩みつつ寄り添う労組

     この病院には従事者約400人を組織する労働組合がある。書記長は、新型コロナウイルスに最前線で立ち向かう労働者に「労組はケアできているだろうか。模索している」と話す。

     本来なら、通常と違う業務を行う場合は、事前に労使が合意する必要があるが、今回はなかった。組合員から「新型コロナ感染疑いのある患者を受け入れるらしい」「感染が怖い」などの声が労組に届いた。書記長は実態を把握しなければと病院側に問い合わせたものの、緊急対応に追われて応じてもらえなかったという。

     「労使合意という原則を守りたかったが、労組への報告や協議は行われなかった。執行委員と相談し、後追いでも状況共有を求めようと決めた」という。「労働者の不安や悩みを聞く窓口になろう」と執行委員を中心に、職場の労働者に声をかけて、必要な場合には病院側に様子を伝えた。

     労組は、労働者が新型コロナウイルスに感染、濃厚接触した場合の休業扱いについて要請。病院側は賃金を全額補償すると回答した。感染による休業補償として特別休暇が創設されたが、現場に周知されず年次有給休暇で対応するケースも発生。特別休暇での申請を求め続けた。危険手当の創設も要求している。

     

    ●国や行政の支援、早く

     

     春闘で一時金については、夏季1・5カ月、冬季1カ月でいったん妥結した。だが、新型コロナによる病院経営の厳しさも踏まえて、夏季や冬季の算定月数を決めずに、あえて年間協定で「年間2・5カ月」を求めた。病院側からは「夏季1カ月」との回答があり、労組も受け入れた。近隣では一時金ゼロの病院もあり、組合員からは「よく出してくれた」。一方で「冬季は出るのか。不安だ」との声も寄せられている。

     病院の経営状況は、4月は約7300万円、5月は1億3千万円の赤字で、2カ月間で2億円近いマイナス。現在、銀行の借り入れを申請中だが「倒産の危機」だという。健康診断の延期と受診控えで大幅な減収となり、さらに新型コロナ対策による病床削減、防護具などの購入による出費が追い打ちをかけている。

     国や地方行政からは具体的な支援額をいまだに提示されず、保障される確約もない。もはや病院の経営努力だけではどうにもならない。国や地方行政からの支援がなければ、新型コロナによる感染拡大の第2、3波に耐えられないのは明らかだ。

     

    ●低賃金で働く従事者

     

     労働政策研究・研修機構(JILPT)が集計したデータによると、医療・福祉分野の6・6%、約30万人が厚生労働省の示す「最賃近傍」(地域別最賃額×1・15未満の賃金)で働いている。医師を除く医療業の所定内賃金は、他産業に比べて約1万円低い。医療従事者は新型コロナの感染リスクを負い、危険と隣合わせで働きながら、非正規労働者も含めて低賃金だ。(表)

     労組書記長はこう語る。「今は医療従事者の使命感でなんとか持っている。この状態は長くは続けられない。国や行政は早急に支援措置をとってほしい。労組も声を上げる。地域医療を守るには医療従事者の賃上げや労働条件の改善も避けられない課題だ」(おわり)