「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    〈働く現場から〉携帯止まると一気にどん底/ジャーナリスト 東海林智

     「料金払えずスマホが使えなくなったらおしまい」

     年末年始に新宿・大久保公園で開いた「コロナ被害相談村」。そこにきた30代の男性はそう言って首をすくめた。彼のスマホは、〃自力〃で使うことはできなくなってしまった。コンビニのそばなどフリーのWi‐Fiをキャッチできるところで、かろうじて使える。そこで、情報を拾っている。相談村の情報にもそうしてアクセスした。

     

    ●年越し派遣村と同じ

     

     彼と同じ言葉を聞いたのは、年越し派遣村が開かれる前の2008年の夏だった。日雇い派遣が社会問題になりかけていたころだ。日雇い派遣で働く若者を取材する中で、聞いた。「料金が払えなくなって携帯が使えなくなったらジエンドです」。日雇い派遣は、日々雇われ、日々解雇されるスタイル。仕事の案内は携帯に送られる。だから、携帯が使えなくなれば、仕事の情報を得たり、応募したりする手段がなくなるのだ。実際は住居を失って、携帯が使えなくなっても、プリペードカード式のを使って仕事を得ている人もいたが、携帯が命綱であったのは変わらない。

     10年以上を経て、不安定な雇用の労働者は同じせりふを言うのだ。冒頭の彼の言葉が大げさでないのは、相談村に来た人のデータからも明らかだ。相談者のうち、電話(スマホ、ガラケー、固定)があると答えたのは35%だった。つまり、3人に1人しか電話を持っていない。通信手段の有無が仕事の喪失、ひいては住居の喪失と密接に関係していることが分かる。

     

    ●日雇い派遣が復活

     

     前回(1月28日付)の原稿でも触れたが、日雇い派遣が復活している。一方で、新たな働き方として、フリーランサーなど個人請負の〃自営業者〃が増えている。冒頭の男性はまさしくこのスタイル。ITのシステム構築の仕事からウーバーイーツの配達まで、個人請負を中心に働いている。男性は「システムエンジニアの請負仕事なんか、いい仕事したら、恒常的な仕事になるかなと思ったけど、一つの仕事が終わったら〃解散〃みたいな感じで、正社員のような扱いにはならなかった」と事情を話す。そして、「『IT土方』なんて言われてます」と目を伏せた。決して自ら望んでいるわけではない。

     ITの仕事が途切れるとウーバーの仕事で食いつないだ。ただ、どこでタイミングがずれたのか、手元の金が底をついた。IT仕事がないまま、ずるずると家賃を滞納し、住居を失った。「結局ウーバーだけでは、家を借りて、生活するのは難しい。でも、ネットカフェにいても、スマホさえ生きていれば、なんとかその日は食える。決して泊まれないけど」

     彼は、食料などをもらうと、(一時宿泊用の)ホテルは申し込まないと言った。食料の入った袋をぎゅっと握りしめた様子からは余裕が感じられず、慌てて名刺を渡し「いつでも連絡して」と言うと初めて、薄く笑った。

     

    ●厳しい暮らし、女性も

     

     コロナ禍の中で、走り続けなければ倒れるような暮らしをしている人は、驚くほど多い。それは男女を問わない。いや、むしろ、派遣村の時とは違って女性の姿が数多く見られた。3月13、14日は同じ場所で、女性を対象に相談会が開かれる。