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    賃上げの流れ、継続へ/21春闘の集中回答/昨年並みに近づけるか

     金属大手をはじめ、連合主要組合の2021春闘の集中回答が3月17日あった。ベースアップなど賃金改善を獲得した組合数は昨年同期と比べて減ったものの、改善分の平均は千円を超え、賃上げの流れ継続へ望みをつないだ。今後続く中小労組の回答で、「昨年並み」に近づけるかが焦点となる。

     金属大手では、32組合が賃金改善分を引き出した。昨年より12組合の減。改善分の平均額は昨年を若干上回る1138円だった。定期昇給など賃金構造維持分は全ての組合が確保した。

     特長は電機の大手メーカー13組合が「千円以上」で足並みをそろえたこと。要求額は昨年より千円低い2千円だったが、13組合の統一闘争により昨年と同水準の成果を獲得した。電機各社は巣ごもり特需など比較的好調で、日立が1200円、村田製作所が1100円と、上積みした。福利厚生などを回答に含めたのはパナソニックとNECの2社にとどまる。

     神保政史委員長は会見で「先行き不透明感が強まる中、難局を乗り越えるための期待値が示された」「各企業労使が真摯(しんし)に交渉し導き出した『解』である。電機産業の社会的役割を果たせた」と語った。

     2年サイクルで今年は鉄鋼が賃上げに取り組まない基幹労連は、造船・総合重工がベアを見送っている。非鉄金属では一部で改善分を獲得した。

     

    【中小】「意外に健闘」

     JAMの大手組合は、アズビル(旧山武)が1413円、島津製作所が1300円を引き出したが、全体的に大手は前年比微減が続いている。16日段階の賃金構造維持分が分かる63組合のベア分は1521円でほぼ前年並み。300人未満が1575円と全体を押し上げている。

     安河内賢弘会長は同日、回答速報を解説し、「意外に健闘している」「大手がベアを取ったことは非常に意味がある」と述べた。

     UAゼンセンは99組合が18日午前10時までに妥結した。会長が妥結権を握るゼンセンでは、相場形成を意識しながら指揮をとる。同日の妥結は単純平均で総額6935円(2・43%)。同一組合比較では前年を331円上回る。そのうち定期昇給相当分が分かる68組合のベア分の平均は2197円で昨年同期を超えた。

     松浦昭彦会長は「『多少厳しくても前年並みにこだわって交渉しよう、特段厳しい業種は別にして考えよう』と確認して交渉に臨んだ」と話す。

     両会長ともに評価したのが、電機大手の回答だ。松浦会長は「電機が千円を出してくれたことで相場が落ち着いた」と振り返る。

     逆に、近年ベア分を公表しなくなった、トヨタなど自動車大手については「最初から無いものとして考えている」と口をそろえる。苦しい時こそ相場を引き上げ、支えてほしいところだが、もうあてにしていないということだ。

     

    【自動車大手】ベア分、全組合公表せず

     自動車大手は、ベア要求を見送った本田と三菱自工を除き、大半が賃金改善を獲得したとみられる。高倉明会長は「産業の変革期」を繰り返し強調しつつ、「賃上げを軸とした人への投資の流れを継続できたのは最大限の成果」と評価した。その一方で、賃上げの相場けん引役から、また一歩遠のいた。

     トヨタは「満額」の9200円。ただ、ベアの有無など中身は明らかにされていない。

     スバルやダイハツ、いすゞなど賃金改善分を得た数社についても今年は公表しなかった。これでベア分は大手組合の全てが見えなくなった。

     新型コロナの感染拡大が続く苦境で、労働界全体で賃上げの継続に取り組んだが、自動車大手労組の存在感は薄らぐ一方だ。

     

    <解説>中小の交渉へ引き継げるか/賃上げは労使共通の課題

     コロナ禍でも賃上げできる企業労使は、何とか前年並みを出そうと努力した結果を垣間見ることができる。12年前の経済危機の時とは明らかに異なる点だ。先行組合の結果を今後の中小の交渉に引き継げるかが問われている

     連合の初回回答を含め、比較的好調の電機、流通、化学、情報・通信で一定の賃上げ回答が集約された。金属大手の回答は、事前の予測では著しく低調になるとみられていたが、何とか持ちこたえた感がある。賃上げ相場を支えたのが、昨年水準をたたき出した電機の回答である。産別統一闘争の優位性が示されたといえる。

     厳しい業種も踏ん張っている。UAゼンセンの繊維素材メーカーの組合は2千円の統一要求を掲げ、500~900円の回答を引き出した。在宅勤務や自粛で衣服関連は売り上げが低迷、製造企業もあおりを受けているが、「マイナスを最小限に」を合言葉に挑んだという。苦境の外食でも2%を超える回答が報告されている。

     中小では、JAMの100人未満組合の健闘が目を引く。18日段階の集約でも同様だ。特にベア2千円以上の組合が3割近くある。多くが自社の賃金水準の低さを労使で確認し、上げ幅の相場を見ながら格差是正分を上乗せしている。

     持続可能な日本経済を考えるならば、賃上げは今や労使共通の課題であり日本社会の課題でもある。賃上げの継続へ、今後の中小労使の交渉でその対応が問われている。