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    労働時評/明暗分かれたコロナ禍の春闘/共闘とリード役見直しも

     21春闘は「特異なコロナ禍春闘」となり、各産別・組合の業績環境や交渉力の強弱を反映し、ベア獲得などで明暗を見せた。全労連は結成32年で初めて金属大手の企業主義打開へ春闘で先行し、成果を上げている。春闘の共闘とパターンセッター(リード役)見直し論が公然と出ているのも新たな変化である。

     

    ●大手は自粛、中小は健闘

     

     連合の賃上げ結果はコロナ禍で厳しさを示した。賃上げの第2回集計(3月26日発表)は平均賃金で5515円と昨年より365円マイナス。率は1・81%でベア要求を復活させた2014年以降最低となった。

     ベア獲得組合は賃金要求組合のうち、わずか53%の546組合で1655円(0・56%)と、昨年同期を248円上回った。規模別では99人未満が同0・04ポイント増の0・66%と健闘。ベア要求組合も中小は昨年より約10%増えているが、大手は21%減少し、社会的役割が問われている。

     神津里季生会長は「コロナ禍でも賃上げの流れを止めず、分配構造の転換を目指す春闘。中小が大手を上回り成果を上げている」と述べた。

     会見では記者から「大手でベア要求が減少し、定昇相当分で『満額獲得(ベアゼロ)』ともされている。連合要求のベア(2%程度)重視の(視点で)回答評価をすべきでは」との質問も出た。

     妥決水準は11カ月連続の実質賃金目減りの回復には遠く、分配のゆがみ是正にも課題を残している。

     

    ●金属大手は苦戦

     

     金属大手は苦戦し、集計54組合のうち、ベア獲得組合は32組合で14年以降では最低。獲得額は1138円となっている。

     自動車は企業連・単組自決とし、トヨタは昨年より900円低い全組合員平均で月9200円を要求し、満額獲得とされているが内容は非公開だ。賃金制度も変え、5段階の資格制度による職能給に一本化した。昇給額も4月の賃金支払い明細まで不明にされ、査定・格差拡大となる。

     日産も要求を引き下げ、昨年より2千円低い7千円として満額獲得となった。ベア見送りは本田、三菱自工、マツダの3社。大手組合は定昇とベアの内訳を初めて非公開とした。

     電機連合はベア要求を昨年より千円低い2千円に設定。妥結の歯止めは昨年と同じ千円以上とし、春闘相場の下支え役を果たした。

     しかし回答は分散。三菱など7社は千円だが、昨年比マイナスは4社で日立は300円減の1200円。NECは福利厚生ポイント(500円相当)を含めて千円とし、パナソニックもベアと年金拠出額を合算して千円とした。

     昨年に続く「妥結の柔軟性」で回答はばらつき、59年にわたる産別統一闘争は転機を迎えている。

     基幹労連の三菱重工などはベアを見送り、鉄鋼大手は昨年ベアゼロで決着。

     JAMは大手のベア獲得で不二越は昨年比500円増の1500円、島津1300円など健闘している。

     

    ●UAゼンセンは力発揮

     

     UAゼンセンの回答(25日)は、満額獲得を含め156組合の加重平均で6901円(2・34%)と昨年を175円上回っている。連合の1・81%を大幅に上回り「産業間格差是正が進んでいる」と指摘。パートの賃上げ率は2・44%と6年連続で正規を超えた。

     産別会長が妥結権を持つ強力な統一闘争。松浦昭彦会長は「コロナ禍の特異な春闘だが、厳しくても昨年並みにこだわり、上積みを目指して効果を発揮している」と評価した。

     情報労連のNTTは昨年と同水準のベア2千円を獲得し健闘している。

     

    ●全労連は春闘先行成果

     

     全労連は春闘で変化を見せた。結成32年で初めて、大手金属の自社型春闘変質の打開へストを背景に回答引き出しで先行し、昨年プラスの成果を上げている。

     スト(11日)行動には、医労連など12産別と官公労、地方集会を含め約5万人が参加。JMITUは52支部分会がストを実施。全労連の春闘先行を評価する声が聞かれた。

     先行回答(10日)は199組合の加重平均で4909円と昨年同期より129円プラス。第2回集計(18日)も5285円と昨年増を続けている。

     全労連の小畑雅子議長は「コロナ禍だからこそ組合に結集して春闘前進」と強調。黒澤幸一事務局長は会見で「要求からは不満だが、組合の交渉力と全国統一ストで奮闘した結果だ。春闘は企業主義を克服し、共闘の力を示す闘い。プラス回答の流れを維持させたい」と決意を語った。

     

    ●どうなるリード役

     

     21春闘では共闘とパターンセッターに関して新たな動きがみられた。

     トヨタでは労使とも交渉で賃金課題には触れず、豊田章男社長が「トヨタには賃上げ以上にリード役が求められることがある」として、デジタル化や脱炭素などの課題をあげている。

     金属労協回答日(17日)や連合の共同会見(19日)では、大手組合のベア見送りや回答分散について「パターンセッターの役割が果たせるのか」「共闘のあり方は」などの質問が出た。

     神津会長は、産業構造や雇用構造の変化を視野に「インフレ時代の春闘とは異なり、デフレ打開では特定のパターンセッターでなく、それぞれが共闘し相乗効果の発揮を目指す」と表明した。

     経団連は「自社型賃金決定」で組合を分断する。春闘は共闘と統一闘争が生命線だ。劣化する賃金の反転攻勢へ、春闘相場の形成・波及を強化する共闘とパターンセッター見直しの今後の展開が注目される。(ジャーナリスト・鹿田勝一)