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    医師の時間外労働1860時間

    脅かされる命と健康

    植山直人全国医師ユニオン代表に聞く

     厚生労働省の有識者検討会は3月、地域医療に従事する医師らの時間外労働の上限を年1860時間とする報告書をまとめ、2024年度から実施されます。これは過労死ラインの約2倍の長さ。こうした長時間労働で医師は国民の命と健康を守ることができるのでしょうか。全国医師ユニオンの植山直人代表に話を聞きました。


    長時間労働容認は医師差別

     時間外上限の年1860時間は1カ月にすると155時間で、奴隷的拘束といわれても当然です。勤務間インターバルも示されましたが、機械的に9時間だけ休み、再び働く。これでは憲法がうたう「健康で文化的な生活」は送れません。

     労働基準法3条には「社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」とあります。長時間労働容認は医師への明らかな差別です。

    医師も労働者

     上限案をまとめた有識者検討会には、医師の労組代表者はいません。「医者は労働者ではない」という認識の委員が多く、労働時間規制が必要だと理解を得るのに多くの時間を費やしました。

     病院経営者や開業医は使用者ですが、勤務医は労働者です。年1860時間もの残業を可能にして、きちんと割増賃金は支払われるのでしょうか。既に働き方改革で時間管理が厳しくなると見越し、「残業時間を申告するな」と圧力をかけるパワハラなども起きています。


    安全こそ最優先に

     長時間労働が医療事故につながりかねないことは科学的にも明らかです。起床から16時間経過すると、急速に集中力が落ちるというデータがあります。英国での研究によると、72%の人は夜勤に適応できないとされます。

     欧州連合(EU)では医師の労働時間は週48時間が上限ですから、過労は発生しにくい。医療の安全確保が最重要だからです。

     日本ではトラックなど自動車運送業の連続運転時間は4時間、最大拘束時間は1日16時間と定められ、罰則があります。安全は医療も同じはずです。

     

    日本の絶対的な医師不足

     日本は絶対的な医師不足に陥っています。経済協力開発機構(OECD)平均に比べ、12万人も医師が不足しています。一方、救急車の搬送件数は50年間で25倍に増加。ベッド数や受診回数も多く、大学病院では手術件数の競争が激化しています。

     厚労省は医療費抑制政策として、医師数を抑制してきました。日本医師会もこれを支持しています。人口減少によって2035年には医療の需要と供給が一致し、医師の長時間労働は解決すると言いますが、医療が進歩すれば、医療への要求はむしろ高まり、医師不足はさらに続くでしょう。

    今こそ国民的議論を

     長時間労働の解消には医師を増やすことが不可欠ですが、医療従事者の力だけでは限界があります。医療を受ける国民と共に考えるべきでしょう。

     例えば、日本では一人の主治医が診察から手術までトータルで診る主治医制が主流ですが、米国では手術専門など役割を分担して複数の医師が関わります。分担制にすると、労働時間を抑制する上で有効な交替制勤務も可能になります。これは一例ですが、どのような医療を受けたいか、国民の間で大きな議論が必要だと考えています。