「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    特信版最新記事

    東アジアの緊張高める

    「敵基地攻撃能力」

    軍事評論家・前田哲男さんに聞く


     陸上配備型迎撃システム、イージス・アショアの配備計画断念を受け、自民党内で「敵基地攻撃能力の保有」の検討が始まりました。国是である「専守防衛」の大転換となります。抑止力を高めるどころか、逆に周辺国を挑発し、緊張を高める恐れがあります。軍事評論家の前田哲男さんに聞きました。

     

    「専守防衛」大きく逸脱

     北朝鮮の弾道ミサイルに備えたミサイル迎撃システム、イージス・アショア配備について、政府はこのほど計画を断念しました。防衛省のずさんな計画が明らかになり、ついに断念に追い込まれたものです。

     これを受け、自民党内では「敵基地攻撃能力」保有の検討が急きょ始まりました。党内で7月中に結論を出し、政府は9月にも国家安全保障戦略の改定に着手する運びです。

     前田さんは「イージス・アショアはまだ『専守防衛』の枠内で何とか理屈付けがされていました。しかし、相手国が攻撃を準備しているとみなして、こちらから他国領土内の基地を攻撃するのは、国連決議違反の先制攻撃となり、専守防衛という日本の防衛原則を大きく逸脱することになる」と警告します。

     一方で、北朝鮮は弾道ミサイルの発射実験を繰り返し、中国は海洋覇権を強めています。安全保障をめぐる環境が変化する中、日本も敵基地を攻撃する手段を持つことで「抑止力は向上する」と主張するメディアも出始めました。

     

    周辺国を挑発、軍拡競争へ

     前田さんは「抑止力とは米ソ冷戦下の1960年代に出てきた考え方です。核戦争になればお互いに壊滅的な被害を受けるので、核兵器は持っていても使えない、このことをお互いに認識し了解していました。逆説的ですが、当時の米ソ両国はホットラインを持ち頻繁に対話を重ね、条約など多数の取り決めを交わしていたのです」「人類を何度も死滅させる強力な核戦力を持ち、敵対しながらも抑止が保たれたのは、頻繁な対話と、相手が理性的に行動するということへの相互理解があったためです」と話します。

     その上で、「では東アジア地域で抑止力が成り立つ前提はあるでしょうか。日本は中国、北朝鮮との間に対話はなく、その努力さえ行われていません。日本が敵基地攻撃能力を持てば、周辺国を挑発することになり、抑止とは全く逆の効果が生じるでしょう」。

     

    戦力制限への外交努力こそ

     核戦争の脅威も高まります。仮に相手国の基地を攻撃しても、破壊されなかった基地から核ミサイルが日本に向けて飛んでくるのは必至です。

     相手より少しでも優位に立とうと際限のない軍拡競争に発展するでしょう。現在の自衛隊の装備、武器体系も大きな転換を余儀なくされ、軍事予算は今よりもはるかに増大することが予想されます。

     前田さんは「2017年に国連で採択された核兵器禁止条約はあと11か国の批准で発効します。そのような世界のすう勢に逆行するとして、国際的に非難を浴びるでしょう」と指摘。

     「過去には米ロ間でミサイル防衛を禁じた弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)や、中距離核戦力全廃条約(INF条約)がありました(ともに現在は失効)。このような枠組みを東アジアでつくる方が、敵基地攻撃能力を持つよりはるかに効果的です。一度実現させた仕組みの再現ですから不可能ではありません。そのための外交努力こそが今、日本に求められています」

     

    敵基地攻撃能力

     敵対する国の基地などを攻撃する長距離ミサイルや巡行ミサイル、爆撃機などのこと。相手が日本に攻撃ミサイルを発射しようとしている場合、その発射基地を破壊して攻撃能力を損失させます。