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    精神疾患増の陰に職場荒廃

    過労死防止学会で研究者ら指摘


     過重労働を原因とした精神疾患の労災申請・認定件数が年々増加しています。9月10、11日に京都市内で開かれた過労死防止学会の第8回大会では、背景に「職場の荒廃」があるとして、その改善が必要と指摘されました。10月1日~7日の全国労働衛生週間は、働き方や職場の現状を見直す絶好の機会です。

     

    労災申請が10年で倍増

     2021年度の精神障害での労災補償の申請件数は2346件でした。10年前の11年度1272件からほぼ倍増の勢いです。認定件数も11年度325件から21年度629件と、申請件数に比例して増えました。

     過労が原因の脳卒中や心筋梗塞などの労災補償が申請件数、認定件数(21年度172件)がともに減少しているのとは対照的です。

     江口尚産業医科大学教授はこの背景について、「職場がかなり荒れている。人間関係やコミュニケーションがかつてはよい形で回っていたのが、最近はうまく回らず、ぎすぎすしている。職場環境がどうなっているかという視点で関わっていく必要がある」と、現場を知る産業医としての実感を語ります。

     

    ●パワハラ上司はリスク

     

     こうした状況を変えるためには、心の不調をまねく「ストレス要因」を減らすための職場環境の改善が必要と指摘し、次のように述べました。

     「職場環境の改善といえば以前は、粉じんや化学物質など有害物質の管理だけを見ていたが、最近は心理的社会要因が加わった。例えば、トルエン(シンナーの主成分)や放射性物質は健康障害を引き起こすのでほとんどの職場がきちんと対応する。同様に、パワハラ上司が不機嫌なパワーを発していると、それはトルエンを職場に放置するぐらいの疾患リスクだと、私は説明している。朝のあいさつをしないとか、職場環境をしっかり見ていかなければならない。また、パワハラを起こさざるを得ない環境もあるのではないかという視点も大切」

     

    深刻化する孤独・孤立

     精神疾患の増加の要因について「IT化」を挙げたのが、井上幸紀大阪公立大学大学院教授。仕事とプライベートの境目がなくなり、24時間・世界中で仕事ができるようになりました。一人の仕事量と責任も各段に増えています。

     「昔は集団で規律に従って皆で支え合いながら働いていたのが、今は個人が切り離され、良しあしはともかく他人と関わらない。大きな社会の変化が起きている」

     コロナ禍で在宅勤務が広がり、働き方も一変しました。業務の指示は、対面で相手の表情を見ながら行っていたのが、一方的にメールを大量に送り付けるようになりました。朝早くから夜遅くまで仕事することも可能に。職場のオンライン会議はオフにすればそれまで、同僚との雑談もありません。新人教育もおろそかになりがちです。

     特に若い人ほど、孤立や孤独がより深刻になっていると指摘しています。

     

    職場改善の機会に/10月1日~7日は全国労働衛生週間

     全国労働衛生週間が今年も10月1日~7日に開催されます。スローガンは「あなたの健康があってこそ 笑顔があふれる健康職場」。国が義務付ける「ストレスチェック制度」でセルフケアを行うとともに、労使で職場の改善をはじめる機会にしましょう。