特信版最新記事

なぜ「任期延長」改憲!?
前のめりの推進派、積み残される問題点
岸田文雄首相が4月25日、自民党総裁任期中での「憲法改正」の意向を表明しました。一方、衆院憲法審査会では災害など緊急事態時に衆議院議員の任期を延長する改憲案が推し進められようとしています。その危ない内容とは?
急浮上した「任期延長」論

日本国憲法は敗戦から2年後の1947年に施行されました。国民を天皇の「臣民」とした大日本帝国憲法から、主権在民や基本的人権の尊重、平和主義の原則を打ち立て、戦後日本の復興と繁栄、平和の土台を築きました。
しかし、米国が日本に軍事的負担増の要求を強める中、日本の軍国化に歯止めをかけてきた憲法に風穴を開けようとする動きが進められてきました。
第2次安倍政権は、憲法9条に自衛隊を明記する案や、政府に権限を集中させる緊急事態条項の創設などを次々に打ち出したものの、国民の支持を得られませんでした。
そこで昨年、突然急浮上したのが「議員任期延長改憲」です。衆院解散時に災害が発生して選挙ができない事態には、衆院議員の任期を延長しようという内容です。
今年3月、日本維新の会と国民民主党、有志の会の3会派が条文案を発表。自民、公明の与党も主張がほぼそろいつつあります。
さらに、5月3日に都内で行われた改憲団体の集会では、「この秋に野党第1党を巻き込み、来年の(改憲)発議をめざす」(国民民主党・玉木雄一郎代表)など、各党から前のめりの発言が相次ぎました。
つきまとう乱用の危険

憲法学者の木村草太東京都立大学教授は「憲法で任期を定めているのは、権力者が都合よく任期を延ばすことを防ぐため。国会議員が自分で自分の任期を延長するのは常にお手盛りの危険がつきまとう」と疑問を呈します。
憲法54条に参院の「緊急集会」という規定があります。解散や議員任期満了で衆院が存在しない場合、参院の緊急集会がその機能を代替できるということは憲法学の通説だといいます。
木村教授は、任期延長の規定を設けると将来、恣意(しい)的に拡大解釈される恐れがあるとし、「(任期を延ばせるという)オールマイティーな条項を作ってルールを後回しにするのではなく、災害で起き得る事態をきちんと想定した適切なルール(法律)づくりが重要。災害発生時でもきちんと選挙ができるよう準備を進めることが王道だ」と指摘しています。
災害に強い社会づくりこそ
衆院の憲法審査会では、選挙ができないことばかりが議論されますが、選挙は民主主義の基本。木村教授が言うように、選挙をいかに行うかの準備と体制整備こそ必要です。
阪神淡路大震災や東日本大震災、熊本地震の被災地では、発災後に選挙が行われました。そこでは「復興政策」が一大争点となり、有権者が高い関心を寄せました。緊急時こそ民意の反映が必要である証左といえるでしょう。
先日の能登地震をはじめ各地で地震が頻発しています。首都圏が大きな被害を受ける首都直下地震や、太平洋沿岸を襲う南海トラフ地震は近い将来必ず起きるといわれます。
無駄な改憲論議に多くの時間とエネルギーを割くのではなく、過去の災害対応の知見をくみ取り、災害時の民主主義機能を守ることにこそ知恵を集めるべきという声が高まっています。