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    (43)取材事実とかい離する「視点」

     チームによる綿密な取材にもとづく記事で、教えられる点も多いが、「視点」に疑問がぬぐえない。朝日新聞の大型連載「働き方改革を問う」のことである。

     同一労働同一賃金ガイドライン(指針)が骨抜きになった内幕を伝えた第1回(5月14日付)は秀逸だった。

     指針づくりでは、水町勇一郎・東大社研教授らの有識者検討会は「すっかりないがしろ」にされ、内閣府幹部が水面下で経団連と調整。調整に関わる非公式会合には、労契法20条訴訟で日本郵便代理人を務める弁護士も出席していた。

     連載第2回は、東京メトロと日本郵便をめぐる労契法20条訴訟を詳報。そこは良かったが、記事末尾につけられた「視点」(沢路毅彦編集委員)には首をかしげた。

     「今の労組に格差是正の役割が十分に果たせるのか。……労働者代表制のような別の手立てを、そろそろ真剣に考えるべきだろう」。労働者代表制は考えるべき論点だが、2つの訴訟とも労働組合がとりくんでいる。その労組(東京東部労組と郵政産業労働者ユニオン)の名前も、記事にはなぜか書かれていない。

     第3回は5月28日付。アルバイトとして採用した若者を正社員化という「ニンジン」で酷使し使い潰した企業や、「求人詐欺」の事例を取材、報告した記事本文は良かったが、文末の「視点」(庄司将晃記者)には驚いた。

     見出しは「転職のハードル、下げる方策を」。転職が容易になれば「企業は人材確保のために労働条件の改善を迫られる」。

     一面の真理だが、そうした労働市場メカニズムだけで解消しないのが問題の肝だ。ブラック企業から別のブラック企業へ転々と「転職」するケースもめずらしくない。

     庄司記者は結論として、「ライフステージに合わせて多様な働き方を選べる社会をつくるためにも、長期雇用の正社員を中心に据えてきた『日本型雇用システム』の見直しは避けて通れない」と説く。

     この20年、「日本型雇用の見直し」「多様な働き方」と称して、ひたすら雇用の劣化が進んできたのに。2回目も3回目も、記事本文に書かれた取材事実と「視点」は乖離している。足で稼いだ取材事実に支えられない「視点」は、どこから降ってくるのだろうか。