「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    生活文化・最新記事

    (54)AIに奪われる仕事 人にしかできない仕事

     囲碁や将棋のプロ棋士に勝って話題を呼んだAI(人工知能)の産業への活用が広がる。人の仕事がAIに奪われるという議論も盛んだ。

     人の仕事をどう守り、技術革新を人々の幸せにつなげるか。国立情報学研究所教授・新井紀子さんの近著『AI vs 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)は、そのテーマでの必読の一冊だ。

     新井さんといえば「東ロボくん」プロジェクトで名高い。AIを育て東大を受験させる。目的は合格ではない。AIにできること、できないことを見極めるためである。

     結果、偏差値は57を超え、国立大学や有名私大の一部が合格圏に入った。目を見張る進歩だが、「もっと頑張れば東大も」というわけではないらしい。AIは計算ができるだけで、論理、確率、統計に還元できない「意味」がわからず読解もできない。問題文が読解できないと、解ける問題は限られる。

     それでもAIが大学受験生(高校生)平均をかなり超える得点を得たのはなぜか。新井さんたちは中高生の基礎的読解力を調べ、衝撃の事実がわかる。中高生の多くは教科書(程度の日本語の文章)が読解できていなかった。教科書を読んで理解できなければ、試験の問題文も新聞記事も読解できない。進学や就職はもとより、その後の職業生活にも響いてしまう。

     そこから新井さんは、AIはおもにホワイトカラーが従事してきた既存の仕事のかなりの部分を奪っていくが、読解力を持たない人間は「AIに代替されない仕事」に就けないため、AIの発達と普及に伴い大失業、AI恐慌が起きかねないと警鐘を鳴らす。重い問いかけだ。

     ただ、オックスフォード大学研究チームが発表した「AIによってなくなる仕事、残る仕事」を無批判に受け入れている点には疑問もある。新井さんはそこから半沢直樹(人気小説の主人公で銀行の融資担当)の失業も予言するが、「意味」がわからないAIに、経営相談を踏まえた融資ができるのか。対人サービス業に限らずものづくりでも、「考える多能工」の代替はそうたやすくはない。

     もちろん、安心はできない。私たち大人も含め、読解力の回復は、人にしかできない仕事とともに、民主主義の存立にも不可欠なのだから。