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    インタビュー/〈給特法改正問題〉・上/教員も36協定を締結すべき/萬井隆令龍谷大学名誉教授

     政府は今国会で、公立学校の教職員に1年単位の変形労働時間制を導入できるようにする給特法改正案の成立を目指している。給特法の正式名称は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」。教員に限定した法律のため、その内容を知る人は多くない。近年、長時間労働にあえぐ教員からは「定額働かせ放題」など批判の声が上がっている。一体どのような法律なのか。1年単位の変形労働時間制の問題を含め、給特法に詳しい労働法学者の萬井隆令(よろいたかよし)龍谷大学名誉教授に話を聞いた。

     

     ――そもそも教員の労働時間はどういう仕組みなのでしょうか。

     萬井 はじめに労働時間制度の基本を確認しましょう。労働基準法32条は労働時間を「1週40時間、1日8時間」と定めています。これを超えて働かせる場合は、36条に基づき労使協定が必要です。原則の32条と例外の取り扱いを定めた36条が労働時間規制の基本であり、二つを併せて理解する必要があります。

     戦後の民主化が進むなかで、教員も労働者として労働基準法が適用されました。地方公務員法が施行されると、一部の適用が除外されたものの、その時も今も、32条と36条は適用されています。しかし、36協定が結ばれず、残業代も支払われなかったため、教員は各地で支払い請求の訴訟を起こしました。一番古い判決は1950年にさかのぼります。裁判所はその都度、支払いを命じました。

     そのような判決が相次いだため、当時の文部省は残業問題を回避しようと、公立学校の教員独自の労働時間制を1972年に施行します。それが給特法です。

     ――「給特法」とはどういう法律でしょうか。

     まず、教員の業務を(1)生徒の実習(2)学校行事(3)教職員会議(4)事故・災害対応――という限定4項目とそれ以外の通常業務に分けます。限定4項目については残業代を払わない代わりに、教職調整額という月給4%の手当を支給します。限定4項目以外の授業準備や部活動指導など通常業務について残業した場合は、その時間分をあとから時短や早帰りをしたりして「調整」することになっています。

     しかし、教員の業務は多すぎて「調整」しきれませんし、教員の業務は待ったなしが多いことから、いや応なく、残業で対応せざるを得ない。そのために、給特法は36条を適用し、36協定を結ぶことを条件に残業を認めているわけです。

     ――給特法では残業代の割増賃金の支払いを定めた37条が適用されません。36協定に意味があるのでしょうか。

     37条は残業や休日出勤の割増賃金を定めた条文です。給特法で37条を適用除外にしているのは、限定4項目に関わるものだと理解しています。つまり、いかなる残業についても残業手当を支払わない、という趣旨ではないということです。実際に残業があれば、36協定の有無にかかわらず、残業代を支払わなくてはなりません。協定がなければ支払わなくてもよいとすれば、協定を結ばない、違法な残業をあおることになってしまいますね。

     これは給特法制定以前、教員が闘い、積み重ねてきた残業代請求の裁判において、繰り返し確認されてきた法理論です。過去の判例はその道理を示しているのです。労使間で無償の労働というものは考えられません。法理論は法的正義の追及が課題であり、決して、無法なことを認めることはありません。

     なお、給特法は、それまで教員には適用されていなかった労基法33条3項を適用し、限定4項目を命じることとしましたが、33条3項は災害などによる臨時の必要がある場合を想定しています。学校行事や教職員会議は災害のような臨時のものではありませんから、その点で、給特法はつたない法律です。

     ――文科省は「学校における働き方改革」の資料でも36協定は適用されないと断言しています。

     それは明らかな誤りです。教員は聖職者だから残業代を払わなくてもいいとでも思っているのでしょうか。文科省は一貫して教員には33条3項で残業を指示できるという見解をとっていますが、それでは、なぜ限定4項目とそれ以外の通常業務を区分したのか、説明が付かなくなります。法律を読んで内容を確認しないまま、文科省の見解をうのみにするのは困りものです。