〈インタビュー〉「物わかりの悪い春闘を」/安河内賢弘JAM会長
約40年ぶりの物価上昇の中で行われる2023春闘。その成否の鍵を握るのが、中小企業の賃上げだ。中堅・中小の金属関係労組でつくるJAMの安河内賢弘会長は「物わかりの悪い春闘」を呼び掛け、連合の5%程度要求は「取り切らなければならない要求だ」と強調する。
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――昨年12月の春闘討論集会で「物わかりの悪い春闘」を呼び掛けました
安河内 連合結成以来30数年間で最も重要な春闘といっても過言ではない。まさに労働組合の存在意義が問われる春闘でもある。日本は約40年ぶりの急激なインフレと、慢性的なデフレという二つの病に罹患(りかん)しており、再び日本経済を成長軌道に乗せるには賃上げ以外にない。約30年来の実質賃金低下に歯止めをかけるためにも、全ての労働者の賃上げをめざすことが必要だ。
一方、業績の回復が進んでいるとは言い難い。原材料を輸入して加工し内需を売り先とする中小企業は、エネルギーや原材料高騰分の製品価格への転嫁が進まず、極めて厳しい状況にある。
従来ならば要求は大変かなという状況だが、私たちの生活は物価高で確実に苦しくなっている。物価上昇分の賃上げを獲得するのは労働者の当然の権利。しっかり要求しようという意味を込め「物わかりの悪い春闘」という表現を使った。
その後多くの単組の委員長がこのフレーズを使ってくれている。これまで少し物わかりが良すぎたという思いが、私自身にもあるし、各単組の委員長にもあるのだと思う。
組合役員は皆、自分が勤める会社が好きで、ある意味雇われ社長以上に会社が良くなって欲しいと願っている。だから業績や経営状況を見て、つい忖度(そんたく)してしまう。でも今の局面は賃上げを控えて乗り切ろうとすれば日本経済は縮小、人材は流出し、会社を守ることさえできなくなる。だから歯を食いしばってでも物わかり悪く要求・交渉することが必要だ。
――歴史的な春闘だと
このまま賃金の低迷が続けば、日本は先進国から脱落してしまう。既に1人当たり国内総生産(GDP)は韓国と台湾に抜かれ、インドネシアも背後に迫る。日本は工業製品を輸出し原材料や食料などを輸入してきたが、グローバル経済でモノを買えなくなる事態が到来するだろう。それは遠い先のことではない。すぐそこまで来ている。
約40年ぶりの物価上昇の今春闘を転機に、物価も賃金も上がる経済にしていかなければならない。
約半世紀前に日本経済が高いインフレで苦しんでいた頃、当時の労働組合はあえて賃上げ要求を抑えて物価を落ち着かせた。今求められているのはこの逆のサイクルだ。デフレマインドを払拭(ふっしょく)し、5%程度の賃上げが今後継続的に行われる日本経済をいかにつくるかということが今、政労使に問われている。
その意味で連合の5%程度の要求は時宜を得たものであり、取り切らなければならない要求だ。(つづく)