「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    2016年

    10月

    20日

    インタビュー/〈自民党改憲草案〉(4)/三権分立が崩壊する/弁護士 倉持麟太郎さん

     自民党改憲草案「緊急事態条項」の問題点は何か、倉持麟太郎弁護士(明日の自由を守る若手弁護士の会メンバー)に聞いた。

     

    ●法律制定も自由に

     

    ――緊急事態条項で特に問題な点は?

     草案99条の「内閣は法律と同じ効力を持つ政令を制定できる」という条文は、政府が法律をフリーハンドで制定し変えられるということ。これは大変なことです。

     戦前の日本に実例があります。1928年に治安維持法の重罰化法案が帝国議会に出されましたが、議論が紛糾して廃案となりました。ところが政府は議会が閉会した直後に緊急勅令を出し、重罰化を実現してしまいました。

     議会を無視して内閣が法律を変えてしまう状態は、「立法」と「行政」の権力分立の崩壊であり、立憲主義の停止に他なりません。

    ――緊急事態の宣言はどんなときに出されるのですか

     武力攻撃や内乱、自然災害のほか、法律で定める事態でも宣言できると規定。発令の基準を法律に委任しており極めて不明確です。

     宣言には全会一致の閣議決定が必要ですが、歯止めにはなりません。例えば大臣の一人が反対しても、総理大臣はその場で大臣を罷免して代わりに自分がそのポストにつくことができます。小泉内閣のときに実際に行われたことです。

     一度宣言されると、100日ごとに国会の承認を得れば延長可能。与党は議会の過半数を占めているので延長は基本的に承認されると考えれば、事実上「無限ループ」のように続きかねません。

     

    ●国民を守るものではない

     

    ――実際にどんなことが起きますか?

     昨年11月、フランスのテロ事件で非常事態宣言が出された3日後に私はパリにいました。1週間のうちに裁判所の令状なしの逮捕が約200人、家宅捜索が約800件行われました。司法のチェックなく国家が捜査権を行使するなかで、平時では考えられない数の逮捕や捜索が行われたのです。集会は禁止され、図書館や美術館は閉鎖。酒屋なども営業できませんでした。立憲状態が停止し、人身の自由や集会・表現の自由、営業の自由などが侵害されたことが分かります。

     国家緊急権とは、あくまで緊急時に「国家」を守るものであり、国民や個人を守るものではありません。

     

    ●個人は社会の最小単位

     

    ――私たちはどう向き合えばよいのでしょうか?

     改憲草案の背景にある考え方を見抜くべきです。草案では、社会の最小単位である「個人」の概念を否定し、家族や公の秩序、国家といった共同体が強調されています。個人は共同体の価値観にのみ込まれてしまうでしょう。

     「99人がイエスと言っても自分だけはノーと言える」というのが日本国憲法や立憲主義の精神ですが、「みんながイエスと言っていることに君も従いなさい」というのが改憲草案であり、その最たるものが緊急事態条項なのです。

     政府は国民の反発を避けるために「緊急時の議員の任期延長」などマイルドな改憲案も議論しているようですが、国民主権を軽視し、立憲主義を否定する思想を見抜かなければなりません。

     その上で私たちは、異なる意見を持つ人とも触れあい、話し合う胆力を持つことが大事です。一人一人が個人に立ち返ることが、分断された言論空間や世代を超えて改憲草案を許さない力になるはずです。