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    定年後再雇用の格差「容認」/東京高裁/原告側が逆転敗訴に

     同じ仕事をしているのに定年後再雇用で賃金が大幅に下げられるのは違法だとして、長澤運輸(横浜市)に勤めるトラックドライバー3人が差額賃金の支払いなどを求めて同社を訴えていた裁判の控訴審判決が11月2日、東京高裁であった。杉原則彦裁判長は「職務が同一であるとしても、賃金が下がることは広く行われており社会的にも容認されている」と判断。原告の訴えを認めた東京地裁判決を取り消し、請求を棄却した。

     裁判では、正社員と有期雇用など雇用期間の定めの有無による不合理な労働条件の違いを禁じた労働契約法20条が焦点となった。(1)職務の内容(2)配置変更の範囲(3)その他の事情――の3点を考慮して不合理と認められた労働条件は無効となる。

     今年5月の東京地裁の一審判決では、原告らの職務や責任の程度((1)(2))は正社員と変わらず、定年後再雇用に3割の賃下げをすることは不合理と認定。差額賃金の支払いを同社に命じた。

     しかし今回の高裁判決では、職務や責任の程度((1)(2))については一審同様に同一と認定したが、その他の事情((3))として、定年後再雇用者の賃金減額は「社会的に容認されている」と指摘。仕事内容が同じでも再雇用者の賃金を減額することに不合理性は認められないとして、一審を取り消し請求を棄却した。

     

    ●格差追認のずさんな判決

     

     原告代理人の宮里邦雄弁護士は「定年後再雇用の賃金引き下げが広く行われていることは事実だが、それが『社会的に容認されている』という根拠はなく、裁判所の独自の判断だ」と指摘。「1回の審理で終結させる審理のあり方が、ずさんな判決につながった」と述べ、上告の意向を明らかにした。政府も、雇用形態の違いによる格差を是正する「同一労働同一賃金」の立法化を検討している点に触れ、「本件はまさにその典型。にもかかわらず(格差のある)現状を追認する今回の判決は社会的にも妥当性を欠くもの」と厳しく批判した。

     原告らが加入する全日本建設運輸連帯労働組合の小谷野毅書記長は「若者が少なく人手不足が深刻な運輸業界では、定年後再雇用者が基幹的な労働力として雇用されている現状がある」と指摘。再雇用後、一定の業務軽減に伴って賃金が減額される事務職などとは事情が異なる背景を説明した上で、「格差や不合理性を追認し、全面的に会社の意向をかばいだてする内容だ」と憤った。

     原告の鈴木三成さん(62)は「大変不当な判決。最高裁で勝利するまでやっていきたい」。山口修さん(62)は「同じ仕事をしているのに30%賃金が減額されるのは納得できない。徹底的に闘っていきたい」と述べた。

     

     長澤運輸事件 セメントなどの輸送を行う長澤運輸で20~34年にわたり正社員として勤めてきた男性3人が、定年後再雇用で同じ仕事内容なのに賃金が3割減額されたことは違法だとして、差額賃金の支払いを求め同社を訴えた裁判。原告3人は建設運輸連帯労働組合関東支部の組合員で、2014年の定年後に1年契約の嘱託社員となり、賃金が約3割カットされた。組合は格差是正を求め団体交渉を続けてきたが、会社側が応じないため同年提訴した。