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    インタビュー/〈人手不足と春闘〉(2)/「当たり前」の賃金水準求める/三浦宜子日本医労連書記長

     長時間夜勤や少ない人員配置で過重労働がまん延する医療・介護の現場。来年には労働者の処遇に大きく影響する診療報酬・介護報酬の改定を控えている。医療・介護労働者らでつくる日本医労連は今春闘にどう取り組むのか。三浦宜子書記長に聞いた。

     ――医療・介護業界の人員不足はどうなっていますか?

     介護の現場では人手不足が深刻であるにもかかわらず処遇改善が進んでいない。ギリギリの人数で運営している事業所が大半だ。特に夜勤の長時間労働を1人で行う「1人夜勤」は過酷で、事故が起きれば利用者の命を1人で守らなければならないというプレッシャーでメンタル障害を患う労働者もいる。そのうえ介護職の賃金は全産業平均と比べ月額で約10万円も低い。手取り10万円前後という賃金も珍しくなく、これでは暮らしていけないと悲痛な声が上がっている。

     看護師の過重労働も改善されていない。夜勤交代制勤務では、海外では当たり前の1日単位の労働時間の上限規制がないため、16時間以上の長時間労働が多くの病院でまかり通っている。十分な人員が配置されていないため、鳴り続けるナースコールなどの対応に追われ、夜勤後も残業しなければならない現場も多い。「拘束時間が長過ぎるため、子育てと両立できない」などの理由で、熱意を持ちながらも離職せざるをえない。介護職や看護師は女性の多い職種。安倍政権は「女性活躍」を掲げながら医療・介護の現場に目を向けていない。「働き方改革」を掲げるのであれば、人員確保のため処遇改善と実効ある長時間労働規制に今すぐ取り組むのが筋だ。

     ――来年には介護・医療報酬のダブル改定が控えていますが?

     診療報酬と介護報酬のマイナス改定によって診察料や施設の利用料が下がるといった面ばかり強調されるが、現場では厳しい労働環境に拍車が掛かる。

     マイナス改定が実施されれば介護事業所の収益が減り、介護職の賃金切り下げにつながる。病院では患者さんの人数に対する看護師の配置基準が切り下げられ、現場はますます疲弊することになる。

     政府は「保険料負担を増やさないため」と言うが、社会保障費削減のしわ寄せが、医療・介護の現場や労働者に押し付けられているというのが現状だ。 

     マイナス改定によって人の命を預かる医療・介護の質が合理化の名のもとに切り捨てられるのを許してはいけない。その意味でも、今春闘は重要だ。

     

    ●世論に訴えるチャンス

     

     春闘は現場の過酷な実態を広く知ってもらうチャンス。多くの組合が地域での街頭宣伝やストライキを予定している。医労連は、月額平均4万円以上、時給は誰でも250円以上のベアを要求して今春闘に望む。

     重要なのは「介護や看護の労働を正当に評価してほしい」というメッセージだ。「経営が厳しいから人件費を減らさなくてはならない」という経営側の言い分に要求を自粛してはいけない。現状に流されれば医療・介護の業界はさらに先細りし、人員不足の解消も困難になる。安心安全の医療・介護の実現のため、「当たり前の水準」を求めて要求をしていくことに意味がある。