「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    地公法・自治法改正案を見直せ/官製ワープア研/国会審議のポイントを提示

     官製ワーキングプア研究会(白石孝理事長)は4月3日、今国会に提出されている地方公務員法と地方自治法の改正案について、国会審議のポイントをまとめた。関係議員らに活用してもらうのが目的だ。同研究会は法案には弊害が多いとして「いったん廃案にすべき」との見解だが、国会で成立が狙われていることを踏まえ、は法案見直しと慎重審議を求めている。その内容を紹介する。

    (1)代償なき基本権剥奪

     

     法案は、現在の特別職非常勤職員と一般職非常勤職員、臨時職員の大部分を、新たに設ける「会計年度任用職員」に移行させることをうたっている。

     その際、特別職非常勤職員の扱いが問題になる。地公法の適用除外によってストライキ権を含む労働基本権が保障されているためだ。もともと特別職は議員や審議会委員などが対象で、労働者的な働き方をする職員は想定されていなかった。ところが自治体は一般の非常勤職員を脱法的に特別職として採用してきたことから、結果として基本権を容認せざるを得なくなった。

     特別職職員が会計年度職員に移されると、労働基本権は一般の公務員と同様、制約される(現業は別)。スト権を失い、労働委員会の活用もできなくなる。

     労働基本権を制約するなら、代償措置が必要だ。国家公務員の場合は、人事院が設置されて給与勧告などを行っている。地方公務員には人事委員会が同様の機能を果たすことになっている。ところが、自治体の非常勤職員にはこうした代償措置が期待できないという。同研究会は「これまでも一般職非常勤職員に対して給与勧告した人事委員会は皆無だ」と指摘する。

     代償措置を設けずに労働基本権を剥奪することになれば、ILO(国際労働機関)条約違反となる。国会でこの点を確認できるかどうか。東京公務公共一般は「(政府答弁によっては)ILOへの提訴も考えざるを得ない」と語っている。

     

    (2)更新への期待権を奪う

     

     法案の大きな問題点の一つが、新たな会計年度職員について「1年任用」を明記したことだ。

     これまで非常勤職員の任用根拠や基準はあいまいだった。総務省は「原則1年」と通知していたものの、行政の通知であり、法的な拘束力は持っていなかった。実際、自治体では、事実上の契約更新(法的には再度任用)をして、長期に働くパターンが少なくなかった。

     ところが、法律で「1年」と規定されると、強制力を持ち、あいまいな形で続けてきた事実上の契約更新がやりにくくなる。裁判で認められた更新期待権(東京中野区保育所非常勤雇い止め事件)も使えなくなる恐れが出てくる。

     このため、研究会は「会計年度職員とは別に、従来の一般職非常勤職員(地公法17条任用)を選択肢として残すべきだ」と訴える。17条の一般職非常勤職員に対しては「1年任用」の法規定は適用されず、契約更新が期待できるからだ。

     総務省の担当者は実行委との話し合いの中で「17条一般職非常勤職員を残すことは想定していないが、違法ではない」と答えている。国会答弁でこの点を確認できるかどうかが鍵だ。

     

    (3)毎年毎年の試用期間

     

     法案は「1年任期」を規定した上で、最初の1カ月を「試用期間」にすることとしている。試用期間というのは条件付き採用。

     1年働いた後に再度任用された場合も、1カ月の試用期間が付く。その翌年に再度任用された場合もまた1カ月の試用期間が繰り返される。研究会は「毎年試用期間を設定するというのは民間でも見られないやり方だ。経験を尊重しておらず、働く者への侮辱だ」と厳しく批判。

     要するに法案は、事実上の契約更新が延々と続く事態を避けようとしているのだといえる。「1年ぽっきりですよ」という念押しであり、長期に契約更新させないための手だての一つになる。

     研究会は「こういう侮辱的な扱いを受けると分かっていて、現在も採用困難な保育士らが応募してくるだろうか」と疑問を投げ掛けている。

     

    (4)偽装パート乱造の恐れ

     

     総務省が昨年12月にまとめた研究会報告から法案で大きく後退したのが、会計年度職員をパートタイムとフルタイムに分けたこと。

     しかも、その基準は正職員と同じ労働時間かどうかだけ。正規が1日7時間45分の労働時間だとすると、1分でも短い労働時間の非常勤職員はパート扱いになるのだという。1分は極端だとしても、総務省は「1日7時間30分ならパートだ」と明言している。

     フルタイムの会計年度職員は「給与と諸手当」支給の対象となる。一方、パート職員はその対象とはならず、唯一例外的に期末手当(勤勉手当を除いたボーナス)を支給できることにするという内容。当初、非正規公務員全体が(退職金を含む)給与・諸手当の対象になるはずだったが、法案段階でどんでん返しされた形だ。

     自治体にとっては、わずかな労働時間差を設けることで、低コストで使い勝手のいい疑似パートとなる。しかも、期末手当が確実に支払われる保障はない。「支払うことができる」とした点は前進だが、国による財政措置があるかどうかが大きなポイント。現時点で財政措置は明言されていない。

     

    (5)短時間公務員制度を

     

     法案がつくろうとしている会計年度職員は、支払われるかどうかも怪しい期末手当と引き替えに、無権利で使い勝手のいい働かせ方モデルになりそうだ。

     研究会は対案として、短時間公務員制度の創設を提言している。働く期間は無期で、労働条件は均等待遇、権利は正職員と同等というもの。

     実際、厚生労働省は民間企業に対して短時間正社員制度の導入を勧め、助成も行っている。普及はまだ少ないというものの、公務にも同様の仕組みをつくるべきとの主張だ。研究会は「範を示すべき公務労働関係が厚労省と同じ足並みをとらないことは政府内の不一致ではないか」と指摘している。

     安倍政権は働き方改革を推進している。このチャンスに官製ワーキングプアと言われる公務非正規職員の働き方を是正するため、国会では真剣な論議が求められている。