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    インタビュー/人権侵害と萎縮生むだけ/共謀罪法案/岩崎貞明民放労連書記次長

     犯罪を話し合い、計画を立てた段階で取り締まるという共謀罪。それを立件するために捜査当局はどういう立証活動をするだろうか。相談や打ち合わせがあったことが証拠になるわけで、誰と会ったか、電話で何を話したか、メールで何の相談をしたか――これら一切が捜査対象になる。実際に犯罪を行うかどうかも分からない段階で情報を収集する。つまり、一般の人のあらゆるコミュニケーション行動を収集・監視することになる。

     これまでも公安警察は情報収集・監視をこっそりやっていたのは周知の事実。法案が成立すれば、捜査当局はそれを堂々とやれる。日常の会話や通話を、気兼ねなく安心してできる状況ではなくなる。それはあまりにもひどいと思う。

     

    ●取材が困難に

     

     特にメディアの世界について言えば、放送でも人の話を聴くことから仕事は始まる。取材、企画、打ち合わせなど、番組をつくる上では人との接触が欠かせない。それが犯罪の謀議だとか計画だと決めつけられる恐れは十分ある。犯罪と関係しているかどうかを判断するのは捜査当局だからだ。

     特定の人物に目を付け、「あいつはこういう奴だ」という目で監視し、犯罪を実行する嫌疑があると判断して令状を取れば、身柄拘束だけでなく、取材ノートやパソコンなどをみんな警察に持っていかれる。犯罪とは無関係の情報まで収集されてしまう。

     これでは、取材対象との信頼関係は成り立たなくなる。自分が提供した情報がメディアから警察に渡るとすれば、そんな取材には応じてもらえなくなる。報道だけではない。市民運動などでも、アンケートなどで相手から話を聞くことが難しくなるだろう。社会に大きな萎縮効果を与える可能性が十分にある。それは、表現の自由、報道の自由、集会の自由などの基本的人権の侵害ではないか。

     

    ●国連の指摘も無視か

     

     既に沖縄では、反基地運動を行っている非暴力の市民を、テロリストであるかのように扱っている。共謀罪が制定されれば、市民運動は根こそぎ共謀罪の対象にされるのではないか。政府に批判的なことはできなくなる恐れが強い。

     戦前の治安維持法ができた時も、対象は共産主義者らだけで、一般の人は無関係と説明されていた。それが法改正され、拡大解釈されて適用範囲が広がっていった。共謀罪でも同じことが懸念される。解釈で適用拡大するのは容易だ。

     政府は国連の国際組織犯罪防止(TOC)条約批准のために共謀罪が必要だと説明するが、一方で、同じ国連のプライバシー権に関する特別報告者(ジョセフ・ケナタッチ氏)は、共謀罪法案によって権利制約の恐れや、政府による恣意(しい)的な適用の恐れを指摘し、五つの懸念事項を列挙した。国際的な人権水準を無視しているから、こういうちぐはぐなことになるのではないか。

     犯罪抑止効果は不明確であり、それに比べれば、人々の自由を奪うという犠牲が大きすぎる。共謀罪法案は全く不要だ。