「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    Q&A/安倍首相の改憲提案・下/高等教育無償化に逆効果?

     ●Q3 高等教育の教育無償化は大事な課題だから、この部分への賛成は当然?

     

     A 憲法89条が公の支配に属さない教育事業への支出を禁じているため、「私学助成は違憲」だとして改憲を主張する意見が以前からある。安倍首相の提案はその変形バージョンだ。

     しかし、私学といえども教育基本法や学校教育法、私立学校法などの下で運営されている。歴代政府や文部省(現文部科学省)は「そういう意味で私学も公の支配に属している。私学助成は違憲ではない」と説明してきた。

     憲法26条には、教育の機会均等がうたわれている。これを実現していく上でも、私学助成の充実、高等教育の無償化は現在の憲法下で目指していく課題であるはず。若者が多額の奨学金返済に苦しむを事態を改善していくため、給付型奨学金の拡充など今すぐにできる政策は多い。改憲に絡めることは、問題解決の先延ばしになりかねない。

     

     ●Q4 首相は「2020年」という期日を示し、期限を区切った議論を求めているけど?

     

     A 2020年は東京五輪・パラリンピックが開催されるから新憲法の下、日本が生まれ変わるべきだ――というのが安倍首相の訴え。しかし、五輪と憲法は無関係だ。与党内からも「初めに日程ありきはないのではないか」という異論が出されている。

     安倍首相の自民党総裁任期は、延長したとしても2021年で切れる。改憲を自分の手柄にしたいが、そのために「国会議論を打ち切れ」とはいえない。そこで無理やり五輪にかこつけたのが「2020年」という期限だ。禁止されている五輪の政治利用という指摘さえ出ている。

     

     ●Q5 自民党の改憲草案よりも「まだまし」という考え方もあるんじゃない?

     

     A 2012年に発表された自民党の改憲草案は、天皇を元首にしたり、国防軍を創設したり、個人よりも家族を尊重するなど戦前回帰・復古調が際立っていた。「公益及び公の秩序」を名目にした人権制限を盛り込むなど、権力規制という憲法の役割への理解が根本的に欠落しているというひどいものだった。

     それでも、国会の憲法審査会の場では、草案をごり押しするのではなく、少なくとも野党第一党の理解を得られる改憲案をまとめようと努力しようというコンセンサスがあった。

     こうした議論を一切無視したのが安倍提案だ。中身も問題だが、民主的な手続きを無視した手法は、それ以上に問題。権力者の独り善がりの提案で憲法が変えられてしまう国は民主国家とはいえない。独裁国家だ。