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    〈インタビュー/北朝鮮核・ミサイル問題〉避難訓練の先にある日本の危機/水島朝穂・早稲田大学法学学術院教授

     北朝鮮が繰り返すミサイル発射に対し、日本政府は全国の自治体に着弾に備えた避難訓練を呼び掛けている。戦争前夜という様相だが、本当に危機は迫っているのか? 軍事問題に詳しい早稲田大学の水島朝穂教授(憲法)に話を聞いた。

     

      北朝鮮問題には、日本の政治の中心に安倍晋三首相がいることの不幸が、一番端的に現れています。

     2002年に小泉首相が訪朝し平壌宣言を結びましたが、その時のことを思い出してほしい。官房副長官だった安倍は、威勢のいい強硬論を振りかざして、柔軟だった小泉首相の足を引っ張った結果、拉致問題はほとんど前に進まなくなってしまいました。

     交渉には微妙な駆け引きと粘り強い交渉力が求められます。安倍は「対話と圧力」というスローガンを繰り返すだけで、拉致問題を交渉する外交チャンネルを自ら閉鎖してしまった。さらに6カ国協議(日米韓中露北)もストップするなか、北朝鮮は、核開発とミサイル発射を弄(もてあそ)ぶというゆがんだ外交アピールを続けているわけです。

     

    ●北朝鮮の「ミサイル対話」

     

     北朝鮮にとってのミサイル発射はゆがんだ対話の手段で、「わが国にもっと注目しろ」「もっと会ってくれ」というメッセージです。戦争する気がないからこそ、いろいろな種類のミサイルを連発し、手の内を見せているともいえます。

     米国もそれは分かっています。4月に空母カールビンソンを朝鮮半島近海に向かわせた際、遠回りさせたのが一つの証左。空母の実戦展開は3隻体制が基本なのに、それもしていません。

     ですから、国内で弾劾危機にあるトランプ大統領が、一発逆転を狙って金正恩朝鮮労働党委員長と直接交渉し、「ミサイルも核実験もやめる」という言質を引き出して問題を解決する可能性は十分にある。理念も大義もなく、損得だけで動くトランプ大統領ならあり得る話なのです。

    ●役に立たない避難訓練

     

     実際、ミサイル発射で騒いでいるのは日本だけ。韓国も米国も静かです。ヨーロッパでは話題にすらなりません。

     北朝鮮が撃つ度にマスコミが大騒ぎし、不安があおられると、安倍首相の支持率も高くなる。「自衛隊にもっと頑張ってもらわなければ」と、憲法「改正」に賛成する人も増えるかもしれません。〃危機〃が続き、不安が継続されるのは安倍首相にとって本当に都合のいい状態です。

     その揚げ句に防空訓練です。北朝鮮からのミサイルを想定した避難訓練が、各地で住民参加の下、取り組まれている。でも、「ミサイルが発射されました。避難しましょう」と警報を流した時には、もう遅い。着弾してますよ。

     戦前、防空法の下で国民は応急消火義務を課せられました。「焼夷(しょうい)弾は水で消せる」「空襲は怖くない」と宣伝され、バケツリレーの訓練も強いられました。しかし、その結果は全国で数十万人の犠牲者です。

     ミサイル避難訓練はそれと同じで、全く意味がない。ただ政府にしてみると、国民を不安にさせる効果は絶大です。

     

    ●敵をつくる安倍政権

     

     安全保障の基本は敵をつくらないことなのに、余計な敵をつくっているのが安倍政権。「対話」目的のミサイルとはいえ、北朝鮮は「在日米軍基地だけでなく、その他の場所も狙う」とまで言い始めています。

     米朝とも本気の戦争モードではないと言いましたが、火遊びから戦争になった例は歴史上多くあります。1982年に英国とアルゼンチンがフォークランド諸島の領有を巡って争ったフォークランド紛争がそうでした。サッチャー首相の「断固たたくべし」という突出した強がりと、メンツ維持のために、両国の艦船同士がミサイルを撃ち合う事態になり、千人近い兵士が亡くなりました。

     それと同様のことが北朝鮮問題をめぐって起きないとも限りません。日本海に撃ったミサイルで漁船が沈没するかもしれない。そうなれば、本当に戦争になる可能性だってゼロじゃない。安倍政権による北朝鮮への強硬姿勢が、国民の命を危険にさらしていることに、そろそろ気付く時です。