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    労働時評/閣議決定で働くルール破壊/労働法制審議が形骸化

     労働法制の見直しに当たって閣議決定事項が優先され、違法解雇の金銭解決や残業時間の上限規制などの検討でも、審議の形骸化と働くルールの破壊が進められている。ILO(国際労働機関)原則の政労使3者協議を守らせるとともに、制度と権利擁護に向けた労働界共同の闘争が求められている。

     

    ●労政審移行に連合抗議

     

     違法解雇の金銭解決制で象徴的な事態が生じている。「委員のコンセンサス(合意)が必ずしも得られたわけではない」としつつも、厚生労働省が法制化に向けて「さらに検討を」と労働政策審議会審議への移行を強引に決めた。連合は「非常に遺憾」と談話を発表し抵抗を強めている。

     厚労省検討会では最初から、「制度は必要」とする日本再興戦略や規制改革実施計画の閣議決定が重視された。金銭解決制の対象となる解雇は「客観的合理性を欠く解雇」(労契法16条)や、労基法、労組法などで禁じられている「労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇」など、11項目が挙げられた。

     金銭解決の仕組みは「違法解雇に対し、労働者が原職復帰を求めずに金銭請求する権利を労働法に創設する仕組み」など3類型。

     連合や労働側弁護士は「違法解雇の金銭解決はリストラの手段となる」「違法解雇が横行し、労働条件擁護のたがが外れる」などとして反対を主張。使用者側弁護士も否定的見解を表明していた。一方、「閣議決定による提起であり、新制度は可能」(鶴光太郎慶応大学教授)など少数意見も出された。

     閣議決定を優先し、違法解雇を合法化することは労働者を保護する労働法の死滅を意味する。

     

    ●経団連了解の残業上限

     

     残業上限規制の審議でも象徴的な発言があった。経団連の委員が「3月15日の労使合意を踏まえて理解する」と賛同。安倍首相が経団連と連合のトップに丸投げした労使合意のことである。

     残業時間は月45時間、年360時間を原則とした。特例で年720時間、繁忙期には1カ月100時間未満、2~6カ月平均80時間まで認めるとし、さらに休日労働を含めると年960時間の残業も可能となる。勤務間インターバル制(休息時間保障)も努力義務という内容だ。

     過労死ラインの残業上限の法制化は大問題。連合の神津里季生会長は「720時間は長すぎるが、罰則付きの上限規制は労基法70年で大きな改革の第一歩」という。

     問題は長時間労働の是正に逆行しかねないことだ。一般労働者の総実労働時間は2016年で2024時間と高止まり。今回の残業上限では年2800時間超(所定内1852時間、時間外960時間)も許容されることになりかねない。

     先進諸国の中でも日本の総実労働時間は長い。ドイツは1724時間であり、日本は353時間も長い。1日8時間労働とすると年44日間分に相当する。

     労働時間の原則は週40時間、1日8時間である。労使協定で残業削減の波及拡大を目指すべきだ。また残業規制では欧州連合(EU)のように残業上限週8時間や勤務間インターバル制度の法制化も目指すべきだろう。

     

    ●部分的同一賃金に

     

     同一労働同一賃金も「安倍働き方改革」の目玉とされているが、制度の実効性は疑問視されている。

     審議会では、「多様な働き方」の下で「成果」「能力」によって処遇の格差があっても不合理ではないとし、使用者に処遇差の説明義務だけを課した。派遣労働では、派遣先労働者との均等・均衡方式か、派遣元での労使協定方式かの選択制を提起した。

     論議の特徴は、政労使とも際立った対立が見られないことだ。政府のガイドライン案は、基本給について「無期雇用労働者と同一の職業経験、能力、成果に応じた部分につき同一支給」とし、部分的同一賃金にとどまる。キャリアの違いなどによる格差も容認している。

     経団連は欧州の職務給制度とは異なる「日本型同一労働同一賃金」を主張。「仕事・役割・貢献度」など、会社側の考慮で「同一」と評価される場合に限定する考えだ。

     問題は、成果や職務遂行能力といった、客観的な指標のない制度となること。賃金格差の固定化も危惧される。

     職務と賃金の客観的な指標については、ILOが提起する知識、技能、負担、労働環境などを考慮した職務比較方法も検討すべきだろう。既に生協などの職場ではILO方式で同一価値労働同一賃金を模索している。審議や運動でも参考とすべきだ。

     

    ●労組は政治変革に立て

     

     労働法制審議の劣化が目立つ背景には、官邸主導によるトップダウンの労働政策と、ILO原則である政労使3者構成の軽視がある。「働き方改革」は働く者のためと装いながら、「多様で柔軟な働き方」「労働参加率向上と付加価値生産性の向上」など経済優先、働く権利の破壊が実態だ。

     山口二郎法政大学教授は、国民や労働者を犠牲にした成長戦略に対し「権利と生活を擁護する運動」を提起。政権と労働組合との関係では「安倍政権の独裁的支配を選挙で負かす行動」(連合総研DIO 16年11月号)を呼び掛けている。権利、労働法制擁護と政治変革を結合した共闘が重要となっている。(ジャーナリスト 鹿田勝一)