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    〈働く・地方の現場から〉安倍政権にとって特区とは/ジャーナリスト 東海林智

     「また?」と思われる方もおられるだろうが、加計学園(岡山市)の獣医学部新設に関連する問題を論じたい。

     こんな前ふりをするのは、安倍政権が疑惑に何も答えず、強引に国会を閉じて野党の追及の場を奪ったからだ。疑惑を放置し、「人のうわさも七十五日」と市民の関心がなくなることを狙っているのなら、いろんな角度から追及し、忘れられないようにする必要がある。この件にこだわるのは、「国家戦略特区」にこそ、安倍政権の本質があると思うからだ。

     

    ●新潟市の農業特区

     

     私が昨年10月に赴任した新潟市は農業特区に指定されている。米どころであり、野菜、果樹など農産業地域として、農業と地域の活性化を目指して特区に手を上げた。新潟市は農家が農地を転用して営む「農家レストラン」の開業や民間企業の農業参入、農地集約の事務手続きの加速化を進めてきた。市によれば、規制緩和のメニューを九つ活用し、約20の新規事業が立ち上がったという。そうした取り組みが、新潟の「食」ブランドの向上にもつながっている。

     例えば、市内で耕作放棄地になっていた砂地の畑では麦が作られ、そこからワイン、パンの商品化など6次産業化が進み、農家レストランに年間約3万人が訪れ、全国初のレストランバスの運行なども始まっている。農業や地域の再生につながるかなど課題も多く、手放しで評価する状況にはないと思うが、地域の活性化に一定効果を上げているのは事実だ。安倍政権の特区制度を評価しない私の目からもそう見える。

     

    ●数だけが評価対象か

     

     ところが、〃有識者〃からなる「国家戦略特区諮問会議」の評価は違う。5月22日の諮問会議では、かの竹中平蔵氏ら民間委員は「(規制緩和の)推進状況が不十分な自治体は、期限を切って特区指定の解除を行うべき時期だ」として、「特に沖縄県および新潟市」と名指した。「もっと規制緩和しないと特区の看板を取り上げるぞ」とどう喝しているのに等しい。前述のように新潟市は企業参入など九つのメニューを活用している。この1年で新潟市が導入した緩和メニューが1件であることが批判の対象になったのだ。

     諮問会議の関心が地域経済の活性化でも、効果でも中身でもなく、「規制緩和をやった数」でしかないことが分かる。特区政策の本質はここにある。安倍首相は「いかなる既得権益といえども、私の『ドリル』から、無傷ではいられない」(2014年のダボス会議)と世界に向けて大見えを切った。改革派をアピールする道具でしかないのだ。新潟市幹部は「規制緩和はわれわれにとって目的ではなく、地域活性化の手段だ」と数のみを評価する政府を批判している。

     

    ●目に余る傲慢ぶり

     

     こう見たときに、今回の加計問題も「特区はしょせん、政権のための道具なんだから、どう使おうが勝手だろう」という傲慢(ごうまん)な姿勢が透けて見える。現に獣医学部に関して、安倍首相は「2校でも3校でもどんどん新設を認める」と、特区という言葉と矛盾することを言い出した。何より、安倍首相は「(獣医学部の認定に自分は)関与できない仕組みになっている」と言っていたのに、自ら堂々とゴーサインを出して見せたのだ。

     安倍首相はあたかも何でも自分の思い通りにできる〃万能のドリル〃を持っているかのようだ。こういうドリルを持った人を、民主主義社会では、〃独裁者〃と呼んでいる。