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    〈精神科病院の今〉(1)/時代遅れの「特例」基準/極端に少ない人員配置

     精神疾患の患者数は近年大幅に増加し、厚生労働省によると300万人を超えている。うつ病やアルコール依存症などもあり、誰にとっても他人事では済まされない問題となっている。だが今の精神科病院で十分な医療を提供できているのだろうか。

     

    ●患者に向き合えない

     

     都内の精神科病院で勤務する看護師の殿谷真吾さん(44)。長期入院する患者のための慢性期病棟で働いている。「精神科はけがや病気を直接治す外科や内科とは違います。お風呂や食事など日常的なケアの他に、会話や作業療法などを通じてさまざまな症状の患者さんに一対一で向き合う仕事です」と話す。

     入院患者の精神疾患で最も多いのが妄想や幻覚などの症状が現れる統合失調症だ。「一口で統合失調症と言っても一人一人現れる症状には違いがあります。ストレスの原因が何なのかを、毎日顔を合わせる看護師が会話を通じて把握することも治療の一環です」という。

     しかし、精神科看護師の配置人数は精神科特例により、内科や外科に比べて極端に少ない。「興奮した患者や新規の患者の対応に追われてしまうと、入院患者とじっくり向き合う時間が取れないこともしばしば」と話す。看護師の加藤祐樹さん(27)も「忙しければその分、患者さんと話す時間を切り捨てなければならない。仕事が終わって『今日はあの患者さんと一度も話せなかった』と罪悪感を持つことも多い」と吐露した。

     

    ●社会復帰の障害に

     

     作業療法士の田辺彰さん(50)は入院患者に対し、身体機能の維持や社会復帰のためのプログラムを担当している。体操などに加え、竹細工や陶芸といったバラエティーに富んだ企画も立てるが、「人手が足りなければ制約が多くなる」と漏らす。

     「調理のプログラムには包丁や箸が必要になる。工作ではのこぎりを使う。でも目を離すと患者さんが自傷しようとしたり、興奮してけがをしたりすることもある。職員数が十分なら安心だが、人が足りなければ『危険だから』と断念せざるを得ない」

     入院中も人間らしく過ごし、日常生活に戻れるようリハビリを行うのも作業療法の一環だが、現在の人員では難しいという。

     田辺さんは「いまの精神科病院の制度は患者が回復する道を閉ざしている」と憤る。

     

    〈用語解説〉精神科特例

     

     厚生省(現厚生労働省)が1958年に定めた基準。精神科病院・病棟の医師の定数を一般病床の3分の1、看護師と准看護師を3分の2に設定したもの。精神衛生法の制定(1950年)で私宅監置(いわゆる座敷牢などに閉じ込めること)が禁止された後、受け皿となった民間病院の経営に配慮して配置基準や診療報酬を低く設定した経緯があります。入院患者の高齢化や認知症患者の受け入れによって看護の負担が増加。地域社会との連携も求められるなか、少人数基準の精神科特例は時代に合わなくなっているという声が強まっています。