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    〈働く・地方の現場から〉労働法違反7割の意味とは/ジャーナリスト 東海林智

     「7割の企業で違法労働」

     毎日新聞新潟版の8月31日の紙面にこんな見出しがトップに踊った。

     新潟労働局が、2016年度に長時間労働が疑われる409事業所に監督・指導を行った結果をまとめたものだ。過去に労働基準法違反で摘発されたり、不払い残業の相談があったりした〃疑わしい〃企業を集中的に監督指導したのだという。そうであっても、7割(68・9%)の事業所に違法な時間外労働や不払い残業など労基法関連の違反があったとは、驚きを禁じ得ない。

     ところが、記者に取材させると、新潟労働局は私ほどショックは受けていないようだ。この数字の受け止めを聞くと、「同じ調査の全国平均は66%だからちょっと多いだけですかね。普通だと思う」と。確かに全国平均と比べて大差はないのかも知れない、けれど、違法が7割という数字に驚かない感覚はとても理解できない。

     

    ●「守らない」が普通?

     

     考えてみてほしい。ある法律があり、その法律を守らない人が7割もいる。その法律は法律として機能しているだろうか。私は法を守らない者が5割を超えたら、その法律の有効性はなくなるのではないかとすら思う。5割の者が守らない法律は、その時点で法律を守るというモラルが崩壊すると思うからだ。「赤信号」を守らない人が5割を超えても、その交差点を安全に渡れると思うだろうか。ちょっと大げさかも知れないが、7割の企業に違法労働があるという事態を「普通」とはとても思えないのだ。

     そんなことを話題にしていると、新潟県内のある弁護士は、苦笑いをしながらこう言った。「言わんとすることは分かりますよ。でも、労働関連の法律って『そんなきりきり守らないよな』っていうのはあるよね。だって弁護士会から『労働基準法を守りましょう』って来るもんね。弁護士も経営者ですから、労基法を守らない気分もちょっと分かる。東海林さんだって支局員見てるんでしょ」

     確かに、痛い所を突かれた。毎月、支局員にどう公休を完全消化させるかで頭を悩ませる。思わず「俺の若い頃は休みなんてなぁ」と言いたくもなる。けれど、意地でも消化させねばと思っている。支局員はデスクも入れて6人。中小・零細企業の事業所と同規模ぐらいだろうか。そして、人員不足の中で、代休をつけたり、残業を減らしたりと頭が痛い。それでもなお、労基法は働く最低基準のルールを定めた法なのだから、ぐずぐずになるのを許してはならないと思う。

     

    ●やはり権利教育を

     

     法が機能していない状況を嘆いていると、別の弁護士は「法がないわけではないのだから、労働者がきちんと法を使えばいいんですよ」という。法を破る経営者、それを労働者が見逃すから違法行為が常態化するというわけだ。確かにそれはその通りだ。政府は、働き方改革の実現に労働基準監督官を増員すると胸を張る。監督官の増員は重要だが、一朝一夕には状況は改善しないだろう。企業のモラル向上などなおさら期待できない。

     そうなると、やはり重要なのは、労働法の教育をきちんと行うことだ。政府の働き方改革のメニューには一度も上がったことはないが、労働法教育を含め、労働組合の役割、労働者の権利教育を丁寧に行うことが、働き方改革の近道なのではないだろうか。7割の企業で違法労働という現実は、企業性善説の危うさをあらためて示している。