「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    〈働く・地方の現場から〉2大保守では選択肢にならず/ジャーナリスト・東海林智

     「自公VS希望」(毎日)、「自公VS希望VS共闘勢力」(朝日)

     衆院解散を伝える9月29日の朝刊にこんな見出しが並んだ。小池百合子東京都知事が率いる新党・希望の登場で、安倍晋三首相による「自己都合解散」は、政権選択選挙のような構造で報じられるようになった。

     実質的に安倍首相の信任投票だった前回の衆院選と、今回は違うということなのだろう。7月の都議選で小池知事の都民ファーストが圧勝したイメージや民進党の実質的解体も、こうした見方につながっていると思う。

     だが、本当に政権選択選挙になどなりうるのか?  メディアで働く自分が言うのも申し訳ないが、納得がいかない。自公と希望の間に選択を迫られるような違いがあるとは考えられないのだ。同じ〃右翼・保守〃同士の権力闘争、内ゲバであり、頭を悩ませてどちらかを選択するような図式ではない。史上最悪の米大統領選挙といわれた、トランプVSヒラリーの方がまだ選択の余地があった。

     

    ●毒には毒でいいのか

     

     一方、違う見方をする人もいる。新潟県内の大学で地方政治の教べんをとる学者はこんなことを言った。「東海林さん、ともかく安倍首相を政権から引きずり降ろす選挙なんですよ。そのためにはあらゆることをやらないといけない。東海林さんも安倍のやり方には反対ですよね」

     同様の言動は、この教授に限らない。民進党を解党に導いた同党の前原誠司代表も「どんな手段を使っても、どんな知恵を使っても安倍政権を終わらせる」と主張し、「名を捨てて実を取る」と民進を実質的に解体し、小池都知事の軍門に下った。2人に限らず、今回同じような主張をする人は多い。この学者はしたり顔でこうも言った。「毒をもって毒を制すですよ」

     耳を疑った。独裁者を倒すのに独裁者を使うということに他ならない。そんな手法で独裁者を倒しても、残るのはまた独裁者ではないか。そのうち全身に毒が回って死んでしまう。安倍と小池は右傾化を競うような闘いになるだろう。その内ゲバに民進党は飲み込まれたのだ。保守だと公言する者に、憲法違反の安保法制を容認する政党に、関東大震災での朝鮮人虐殺の歴史をなかったことにしようという歴史修正主義者の代表の下に、彼らは集まっていこうとしている。

     

    ●「希望」頼みに疑問

     

     それでは、現場はどうなのか。新潟県は野党共闘と市民連合の力で昨年の参院選(民進、共産、社民、自由、新社会、みどりの共闘)、県知事選(民進が参加しない共闘)で、自公候補を破っている。安倍信任投票と言われた前回の衆院選でさえ、民進は全6区のうち1人は自民に競り勝ち、3人が大接戦の末に破れ、比例復活して4人の現職がいる。これに野党共闘が成立して1~2万票が乗ったら4人が勝利、残る2選挙区も勝利できる可能性がある。

     ちなみに、自民議員が在職死亡した5区では、民進、社民、連合が中心となり、無所属の統一候補を擁立、共産や他野党の共闘も目前の状況だ。希望などに頼らなくても十分勝てる状況にある。

     

    ●ぶれない信念が大事

     

     「共闘がつぶれたら社民票も含めて民進は票が減る。勝負は決まる」と自民の県連幹部は言い、民進の自滅を願う。無所属で闘うのか、希望に行くのか、新潟の民進の現職は頭を悩ませている。

     こんな状況は新潟だけではないだろう。北海道や長野など一定、共闘が進んだ地区はみな悩ましい。重要なのはぶれない信念を持っているかどうかだ。

     結局、組織も持たず、風頼みの選挙を続けてきた都市部の民進議員たちが足元を見られた結果というしかない。議員でい続けたいという欲しかないのだ。風で政治姿勢が変わるような政治家だけは選びたくない。