「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    〈働く・地方の現場から〉選挙で筋を通すことの意味/ジャーナリスト 東海林智

     「〃希望〃を口にした者が〃絶望〃に追い詰められる皮肉な選挙でしたね」

     新潟の地元紙の幹部と、今回の衆院選結果について語り合っていると、その幹部はこんな感想を口にした。全く同じ言葉を地方連合の幹部も口にしていた。

     希望の党から出馬した候補は全国的に苦戦した。新潟県では希望の党の候補は1人もいなかった。だが、その新潟でも選挙結果に影を落としていたのだ。

     

    ●新潟では野党が躍進

     

     新潟県は6選挙区。自民党候補に対し、民進系の現職が4人、新人1人、野党共闘の無所属1人の構図だった。それが、希望の党の設立で、民進系の5人は(1)希望の党(2)立憲民主党(3)無所属――のいずれかの選択を迫られた。結果として民進系は全員が希望の党からの出馬を拒否、立憲民主1、無所属4の立候補となった。その結果、6選挙区のうち五つの選挙区で野党共闘が成立した。

     新潟の選挙結果は、自民が勝利した全国的な流れとは全く逆のものになった。前回は自民が5勝1敗だったが、今回は2勝4敗。野党側は1勝5敗から4勝2敗に大躍進だ。

     

    ●主張変えることに嫌悪

     

     そうした中での冒頭の言葉である。野党の前職で最も苦戦したのは、全国最小の50票差で自民候補を下した3区の黒岩宇洋氏。劇的な勝利だったが、前回は、野党共闘もない中で、新潟県内で唯一自民に勝利していただけに、結果には意外な印象があった。そして、6区では野党共闘の新人が自民候補を2千票差まで追い詰めながら敗れた。

     この2人には共通点がある。告示までの間に一度は希望の党からの出馬を口にしたのだ。2人とも後援会や支持者からの強い説得を受けて、希望からの出馬を取りやめている。だが、一度は希望に行くと言ったことが最終盤まで苦しい選挙の要因となってしまった。

     背景には、新潟の有権者が政治家に「筋を通す」ことを求めたことがある。安保法制や憲法問題で、これまで言ってきたことと、全く別の主張となる政党へ渡り歩くことへの嫌悪感だ。その声は、どこから出るのか悩む野党系候補に陰に陽に伝えられた。

     

    ●試されずみの野党共闘

     

     こうした動きは大なり小なり全国であったと思われる。だが、とりわけ、新潟で効果的だったのは、野党共闘で与党に勝利してきた積み重ねがあったからだ。昨年の参院選で、与党候補と野党統一候補ががっぷり四つで闘い、野党統一が勝利した。その数カ月後には、県知事選挙で与党推薦の候補を野党共闘(民進は自主投票)の米山隆一氏が破っている。

     米山知事は今回の選挙結果に「新潟の野党は(野党共闘の)成功体験を積み重ねている。共闘の敵は疑心暗鬼だ。2回連続で勝ったことで、議員も市民も自信を持った」と分析する。野党共闘という試され済みの車があるのに、希望という方向の定まらない車に乗る必要はないというわけだ。

     新潟の現状を見ていると、希望の党が安倍政権の延命、野党共闘を阻害するために作られたのではとの疑念があらためて浮かぶ。参院選では野党共闘が東北など多くの地域で勝利した。新潟のようにその流れが生かされたなら、今回のような自民勝利の展開にはなっていなかったのではないか。

     新潟県の市民連合のメンバーは「自公が小選挙区で完全な共闘をやっている以上、野党側が共闘できなければ負け続ける。今の政治をまずいと思う市民の現実的な選択肢として野党共闘に関わっていきたい」と話す。本当の〃希望〃は新潟にあるのかも知れない。