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    「給付型」導入で学校現場が混乱/全教/奨学金制度の抜本的拡充を

     「高校は日本学生支援機構の下部組織ではない」。来年度から本格実施される給付型奨学金の推薦業務に関する相談が、6月ごろから相次ぎ全教に寄せられている。全教はこの問題で文科省と同支援機構に要請も行っている。

     給付型は機構のガイドラインに基づいて各学校が推薦基準を作成し、推薦枠内の人数を選考しなければならない。貸与型にはない作業を強いられた学校側に混乱と負担をもたらしているという。推薦枠の割り振りや人数、金額についても疑問の声が上がっている。

     機構のガイドラインによると、給付型は国費が原資であり説明責任が問われるとして、学力要件を設けている。内容は「一定の学力要件を満たすこと」「各学校の教育目標を踏まえた推薦基準を定めていただく」と曖昧だ。

     奨学金の担当教員は各学校に1~2人程度。選考作業は子どもの将来を左右するため、教員の精神的負担も大きい。

     有馬理江子副委員長は「公正公平な募集をするのであれば、選考基準を示してほしい。家庭の経済問題にも立ち入るため、不採用になったら生徒との信頼関係も悪化する。全ての子どもが安心して学べる権利を保障し、制度を拡充することが必要」と述べた。

     文科省は実務の負担について「機構で担うことは物理的に可能だが、生徒の個別の事情を知る教員に負担してもらう」と回答。早急な改善に応じる姿勢はなく、機構が派遣するスカラシップ・アドバイザーの活用を促したという。波岡知朗執行委員は「スカラシップ(奨学金)と付いているが実態はフィナンシャル・プランナーだ。どのように奨学金やローンを組み合わせたらお得か、資産運用の感覚。それは奨学金ではない。奨学金は給付が原則。学費を下げて、給付を行うべき」と批判した。

     全教は(1)支給人数・支給額の増加(2)成績基準を外し、経済的条件のみに限定(3)学校ごとに推薦人数を割り振るのではなく、給付が必要な生徒の応募受け入れ(4)高校への担当者配置や事務負担軽減などの改善――を要求し、関係団体と連携して取り組むことにしている。

     

    〈用語解説〉スカラシップ・アドバイザー

     

     フィナンシャルプランナー(FP)の有資格者が機構の養成プログラム(無料、日本FP協会運営)を修め、試験に合格すると認定される。アドバイザーは申し込みのあった学校に派遣され、「奨学金等進学資金ガイダンス」を行い、奨学金制度の説明、金融的な観点から資金計画を助言する。ガイダンスは来年から全国で実施される予定だ。アドバイザーには1回の派遣で2万円と交通費などが支給される。コールセンター業務大手の「りらいあコミュニケーション」が業務委託で派遣実務を担い、費用は国の財政措置で賄う。