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    労働時評/変動期の組合の社会的役割/17年労働運動の回顧と展望

     2017年の労働運動では労使の分配構造のゆがみが目立ち、働き方改革や9条改憲阻止などが争点となった。組合の社会的役割が問われた一年。変動期にある労働運動を回顧し、展望する。

     

    ●33年ぶり中小春闘奮闘

     

     春闘では33年ぶりに中小のベア率が大手を上回った。妥結水準は大手のベア0・47%(1406円)に対し、中小は0・56%(1295円)。春闘終盤まで獲得額でも大手を上回る健闘ぶりだった。連合の神津里季生会長は「顕著な成果」と評価する。

     背景には「大手追随、準拠からの転換」を掲げて中小春闘を重視。各産別も人手不足への対応と賃金水準引き上げへ、中小への支援体制を強め成果をあげた。今後は上げ幅とあわせ、賃金水準を引き上げる運動が重要となっている。

     中小の奮闘の裏で大手のベアが低過ぎることも指摘される。大手労使の社会的役割も問われている。

     

    ●最賃が春闘相場超え

     

     17年度の最賃改定では25円引き上げられ、2年連続の3%引き上げとなった。平均は848円。しかし政府公約である全国加重平均千円への到達は2023年と程遠い。

     前進の兆しは2つある。第1は地域別最賃の上昇率が春闘の定昇込み賃上げ率を大きく上回ったことだ。変化は13年から。春闘の賃上げが1・8%のところ、最賃は2・0%に逆転。17年は春闘2・11%に対し最賃3・04%とさらに上昇が目立つ。

     第2は、最賃改定で賃金が上がる労働者の割合を示す「影響率」が高まっていることだ。06年の1・5%から16年度は11・0%へと波及が拡大した。埼玉では最賃が871円に上がり、63全自治体のうち、30自治体で働く非正規の賃金是正に影響し、高卒初任給にも影響し始めているという。

     最賃闘争の前進へ向け、世界59カ国で実施されている全国一律最賃制をどう確立するかも戦略課題だ。産業別の特定最賃が最高の496件から、財界の抵抗で233件に半減する中、日本医労連(全労連)が全国適用の産別最賃創設の運動を開始するのも注目される。

     

    ●46年ぶり低労働分配率

     

     労使関係で深刻なのは、分配構造のゆがみが拡大し続け、組合の存在意義が問われていることだ。

     労働分配率は09年の63・8%から16年には52・8%へと低下した。特に大企業では今年9月期に45・3%(中小は約75%)と46年ぶりの低水準に下落。一方、企業配分率は16年までの7年間で14・3%から29・7%へ倍増している。

     内部留保も406兆円と過去最高で、「公正配分」を掲げる「生産性3原則」は破たん状態だ。先進国で賃金が低迷しているのは日本だけである。

     賃金底上げの取り組みだけでは分配のゆがみは拡大の一途である。全体の賃金水準引き上げなど内部留保還元へ組合の社会的責任が問われている。

     

    ●労働法制解体の危機

     

     労働法制をめぐる闘争では、働き方改革関連8法案要綱が争点となった。特に「残業代ゼロ制度」(高度プロフェッショナル制度)は、労働時間規制の適用を除外する、法施行70年での大改悪だ。

     さらに残業上限規制も過労死ラインの月100時間未満を容認し、同一労働同一賃金ガイドライン案も人材活用の違いで格差を固定化する。加えて人手不足やAI(人工知能)などの技術革新を口実に、雇用対策法を改悪。「労働生産性の向上」や「多様な就業形態の普及」による個人請負促進など、労働法制の変質・解体が狙われている。

     組合の存在意義が問われる労働法制改悪阻止の闘争。全労連はストで闘う方針だ。労働界だけでなく、法曹界、市民との共闘拡大が鍵となる。

     

    ●連合、受難の1年

     

     連合にとっては多難な年だった。中でも2つの「異変」があった。一つは結成以来の組織的混乱と評された残業代ゼロ法案の修正をめぐる問題である。一部幹部の唐突な方針転換に異論と批判が噴出し、傘下の全国ユニオンは「反対運動に対する裏切行為」との声明を発表。全労連、全労協、市民からも批判が強まり、法案修正の合意は見送られた。働く者の代表としての連合の威信は大きく揺らいだ。

     二つは総選挙で民進が、希望、立憲、無所属に3分裂。厳しい選挙結果と支持政党の見直しにも直面している。連合の組織内、推薦国会議員など145人の再結集へ「連合フォーラム(仮称)」を年明けに設立する方針だが、足並みは乱れ、前途は多難だ。ナショナルセンターとして支持政党が決まらないことは、結成28年の連合にとって異例の深刻な事態。難局の打開へ、新体制のかじ取りを担う、神津会長、相原康伸事務局長の手腕が試されている。

     

    ●世直しへ、力の発揮を

     

     憲法も施行70年で最大の危機に直面している。違憲の共謀罪は、4度目の阻止とはならず、ついに強行採決された。さらに安倍政権は総選挙で改憲勢力が3分2以上を占めたことを背景に、戦後初めて憲法9条に「自衛隊」を明記し、「戦争する国」づくりへと暴走している。

     他方、労働組合、市民などは暴政阻止へ向け、広範な共同組織で「安倍9条改憲NO! 全国市民アクション」の3000万署名や集会を展開している。

     戦後73年の地殻変動とされる転換期。経済闘争と政治闘争を結合させ、「世直し」へ労働運動の歴史的な力の発揮が期待されている。(ジャーナリスト 鹿田勝一)