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    活動の原点はILO条約/森田しのぶ日本医労連委員長

     ――労働運動に参加したきっかけは?

     森田 新人看護師として最初に配属された職場には組合員が一人もおらず、友人に誘われてある組合の学習会に参加したのがきっかけです。そこで給与明細の見方や時間外労働の請求の仕方などを教わりました。

     私が新人だった1980年当時は看護職員の雇用と労働条件に関するILO条約(看護職員条約 77年)が採択され、各地で学習会が活発に行われていたころでした。学習会では「1日の労働時間は8時間以内、時間外を含めても12時間以内」「勤務と勤務の間に少なくとも連続12時間以上の休息期間を与えなければならない」などの具体的な中身を学びました。

     当時の看護師の労働環境を考えたら夢のような内容に思えました。

     

    ●現場知らずの政府案

     

     ――ILO条約が原点ということですか?

     森田 そうですね、希望を感じた条約の水準に少しでも近づけたいという思いはずっとありました。現在でも日本の看護師の労働環境は条約が示すものとは程遠い。少しずつ改善してはいるといえますが、この40年で後退している部分もあります。

     医療と介護の現場は人手不足や過重労働で疲弊しているのに、社会保障費は切り下げられています。今の政府は医療・介護の現場を全くわかっていないと言わざるを得ません。

     ――政府はいま、医療・介護労働に関わる「医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」を進めています

     森田 「ビジョン検討会」の報告書は、医師の長時間労働対策として、業務を看護師らに振り分けることを推奨しています。現在、法律で医師にしか許可されていない医療行為もその対象にするといいますが、安易な政策であり、考え直すべきと思っています。

     看護師の仕事は単なる医師の補助ではありません。日々のケアの中で患者の側に立った看護を行い、時には言葉にしづらい患者の気持ちをくみ取って医師に伝えるなど、看護師にしかできない仕事があります。報告書は、看護師と介護士の垣根を低くすることにも言及しており、二つの職業の意義が軽んじられているのではと懸念しています。

     

    ●我慢は美徳ではない

     

     ――医労連はこれまで「ふたたび白衣を戦場の血で汚さない」をスローガンに戦争反対を訴えてきました。安倍政権の9条改憲阻止に向けどう取り組みますか?

     森田 春闘方針(案)で2016年から続けてきた「戦争に協力しない」労使共同宣言・労使協定を継続することを決める予定です。戦争法で懸念される医療関係者・病院の戦争協力に反対するため、9条改憲の危機に際している今、引き続き取り組んでいく必要があると感じています。

     私が以前勤務していた赤十字病院も第2次世界大戦時には陸海軍病院でした。戦後しばらくは進駐軍に接収され、一般市民の治療に使えなかったと聞いています。ひとたび戦争が起きれば、病院は市民のための医療ができなくなる危険がある。このことを、労使の取り決めをきっかけに現場で共有していきたい。

     ――これからの運動に向けた抱負を

     森田 ナイチンゲールは「我慢は美徳ではない」と言いました。現状の環境を我慢してしまいがちですが、看護師や介護士が我慢しながら働くことは、同時に患者さんや利用者さんに我慢を強いている状況です。医療・介護労働者の労働環境を少しでも国際水準に近づけるため、諦めず一歩でも前進していきたいと思います。