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    ナチス政権を生んだ緊急事態条項/東京大学石田勇治教授が指摘/うり二つの自民改憲案

     「ワイマール憲法の緊急事態条項を背景にヒトラー政権が誕生し、ナチス独裁を敷くために乱用されたのも緊急事態条項だった」――東京大学大学院の石田勇治教授が1月25日、参議院議員会館内で講演。緊急事態条項の危険性を指摘し、同条項が盛り込まれた自民党改憲草案を批判した。

     緊急事態条項は、緊急時に権力を大統領や首相へ集中させ、国民の権利を制限する仕組み。ワイマール憲法には「大統領緊急令」として規定されていた。

     ドイツの近現代史が専門の石田教授は講演で「ナチス政権誕生前の1930年ごろから、ドイツ国会は与野党の激しい対立で機能不全に陥り、大統領緊急令が乱発された。その結果、国会不要論が国内に広がっていた」と当時の社会背景を説明。そうした情勢だからこそ、議会政治を否定するナチスへの支持が集まったと指摘した。

     しかし、ヒトラーが首相に就任した時点では、まだナチスは少数与党。ヒトラーは保守的なヒンデンブルグ大統領を動かし、大統領緊急令を出させることでナチス支配を強める手段に出る。

     「ヒトラーは就任直後に国会を解散。選挙の最中に集会・デモや言論を統制する大統領緊急令を出させ、野党の選挙運動を妨害した。さらに国会議事堂炎上事件を共産主義者によるものと決めつけ、共産党の国会議員を拘束。国家防衛を口実に国民の基本権(基本的人権)を停止する大統領令を出した。この大統領令がユダヤ人迫害、ホロコースト(大量虐殺)へとつながっていった」

     ヒトラーはこうした大統領令とは別に、もう一つの緊急事態条項を選挙直後に手に入れる。国会も大統領も通さずに政府が自由に法律を制定できる授権法(全権委任法)だ。「制定される法律は憲法に違反してもいい」と規定されるなど、ナチスにフリーハンドを与える内容だった。

     石田教授は「政府に立法権を与えるわけだから、すべてが思うがまま。これがあればこそ、ナチのイデオロギーが政策として実現できた」と授権法の怖さを指摘。その上で、自民党改憲草案に盛り込まれた緊急事態条項について「ワイマール憲法の大統領緊急令と授権法の要素を併せ持っている。非常に悪質だ。こんなものをまねして何をしたいのか? 授権法の正式名称は『国難除去のための法律』。言葉の使い方も(安倍首相と)まったく一緒だが、考えていることも同じではないのか」と厳しく批判した。

     

    ●自民党改憲草案の緊急事態条項(抜粋)

    第98条(緊急事態の宣言)

    内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。

    (第2~4項略)

     

    第99条(緊急事態の宣言の効果)

    緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。

    (第2項略)

    3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第14条、第18条、第19条、第21条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。

    (第4項略)