「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    〈最賃千円時代の特定最賃〉(1)/沈む小売、追われる製造業/最賃千円時代の特定最賃/あり方の模索、新設の動きも

     地域別最低賃金(地賃)が3%引き上げられる中、2017年度の特定(産別)最低賃金の改定では、商品小売の苦戦が続き、水準で地賃に迫られる金属製造業では首の皮一枚で残せたケースが増えている。ゼロからの新設の取り組みや、制度のあり方を見直す検討も始まっている。数回に分けて連載する。(9ページに改定の一覧表を掲載)

     

     金属労協はこのほど、企業内最低賃金協定を高卒初任給に近づけることを念頭に月額16万4千円以上に引き上げる目標を設定した。平均所定労働時間で割ると時給1019円。最も高い東京都の地賃(958円)が2年連続で3%上昇しても改定を申請できるようにする構想だ。

     特定最賃は、賃金減額競争の防止など、当該産業での公正競争確保を目的とする。一定程度高い企業内最賃協定や、組合決議、労働者の署名を、適用対象労働者の2分の1~3分の1を集めることが新設や金額改定の要件となる【表1】。労使合意を未組織職場にも波及させる制度で、企業の枠を超えた同一労働同一賃金の実現にも資する。企業ごとに賃金や労働条件が決まる日本では異色の仕組みだ。

     改定と新設には公益労使の三者の全会一致が必要で、1人でも反対すれば実現しない(概念図)。地賃が大幅に上昇するようになった2000年代末以降、東京や神奈川などで改定できない事例が多発するようになった。その場合は効力を失い、地賃が適用される(廃止ではない)。

     新設は、対象業種を見直す場合を除き、看護師や運転手、小売などの業種で試みられてきた。だが、「産別最賃(特定最賃)の廃止」を主張する使用者側委員の反対により阻まれてきた。

    ●人材確保のためにも

     

     効力のある約190の特定最賃の約7割を金属製造業が占める。17年度に新たに地賃適用になった金属製造業の特定最賃は富山の「非鉄金属」1業種にとどまった。

     金属製造業種全体の平均引き上げ額は前年比2円プラスの19円。最も高い鉄鋼は20円で、地賃の引き上げ幅に近づきつつある。

     「底上げや同一労働同一賃金の機運の高まり、深刻な人手不足、実勢賃金の上昇など、使用者側が『上げられない』とは言いにくい状況にある」と金属労協の担当者は話す。

     高倉明議長は1月、全国の最賃担当者を集めた会合で、「有効求人倍率の上昇に比べて、金属製造業の求人募集賃金の上昇割合は高くない。人材確保のためにも一層の取り組み強化を」と呼びかけた。

    ●関係労使をなおざりに

     

     一方、2010年代半ばまでに地賃適用となった東京、神奈川の「塗料」を含む金属の特定最賃は、毎年改定を申請しているが、いまだ日の目を見ていない。地方最賃審では、経営者協会など経営者団体から送り出された使用者側委員が頑として譲らないためだ。

     特定最賃は「関係労使のイニシアチブ」に依拠する制度。当該産業労使の意思を反映させるべきなのに、経営者団体所属の使用者側委員が横紙破りを続けている――と、労働側は批判する。

     鉄鋼の場合、東京は871円、神奈川は874円で地賃適用となったが、現在14道府県でこの額を超えた(グラフ)。金属労協の浅沼弘一事務局長は「関係労使の話し合いを」と運用の改善を求める。

     地賃に追いつかれないよう早期の引き上げと、地賃が接近する都府県では制度のあり方の検討の両面の取り組みが進む。「地域別最賃千円」時代の模索が続いている。(つづく)