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    〈最賃千円時代の特定最賃〉(3)/求人賃金にも届かない!/手詰まり感漂う改定審議

     地域別最賃が千円に近づく地方では、特定最賃改定の取り組みに手詰まり感も漂う。関係する産別、労組の構えが問われている。

     神奈川ではこの数年来、地賃適用からの脱却をめざし、関係労使の意思を反映させる仕組みづくりの挑戦や、適用対象業種の縮小などの工夫をしながら、毎年全7業種の改定を申請し続けてきた。しかし、経団連が「特定最賃の廃止」の姿勢を強める中、改定を拒む使用者側の厚い壁を崩せていない。

     使用者側は2017年度の必要性審議で改定が必要ない理由として「本県の地賃額(956円)は近隣県の地賃、特定最賃を上回っており、現状において公正競争が損なわれているとは考えにくい」と主張した。特定最賃が失効して数年経つが何も問題は起きていない、との厳しい指摘だ。

     神奈川の地賃は東京に次ぐ全国2番目の高さ。連合神奈川の林克己事務局長は「近隣県の特定最賃が神奈川の地域別最賃を超えるようなことでもあれば、使用者側委員も真剣に検討するかもしれないが、現実的にはあり得ない」と話す。

     

    ●抜本的な引き上げを

     

     さらに、最賃協定の実態面で効果的な反論をしにくい状況に陥っている。

     労動側が改定の申請で提出した7業種の最賃協定の下限(これより高い額で特定最賃は設定できない)は時給963~千円。一方、神奈川労働局によると、昨年4月の県内ハローワークの求人募集賃金(常用パート)の平均時給の幅は1088円~1217円。最賃協定の下限は募集賃金の水準にはるかに及ばず、最賃協定の上限さえ、わずか1業種で求人募集賃金の最低額を超えているにすぎない【グラフ】。

     公正競争確保を訴えようにも協定が実勢賃金に追いついていないのである。労使の慣行で引き上げていた時代ならともかく、前例が破られ効力を失った制度を復活させるだけの説得力は持ちにくい。

     考えられる打開策は、企業内最賃協定の抜本的な水準引き上げ。公正競争確保の水準を高いレベルで再設定する道だ。だが、高卒初任給を超える水準での設定は、経営側からの強い反発が予想される。特に難しいのが、関連グループの中小企業の労組だ。当該の産別が中小労組の最賃協定を少なくとも高卒初任給並みの水準に引き上げられるか、本気度が問われる。

     仮に協定の水準を引き上げたとしても、使用者側が零細事業者の支払い能力を口実に、改定の必要性を認めないことも予想される。前にも後ろにも進みにくいジレンマに直面する。

     林事務局長は「中小企業の最賃協定で下限の引き上げに連合が関与するのは難しい。当該の産別にしかできないことだ。地域別最賃は今後も千円を超えて上がっていくだろう。10年、20年先を見据えて特定最賃をどうするか、考えていかなければならない」。(つづく)