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    インタビュー/「働きながら産みたい」を支援/不妊白書の発行を計画/NPO法人代表の松本亜樹子さん

     不妊治療経験者を支援するNPO法人Fine(2004年に発足)。「不妊白書2018」の発行を計画し、3月末までクラウドファンディングで寄付を募った。その目的について代表の松本亜樹子さんに話を聞いた。

     

    ●両立の困難さ訴える

     

     ――白書発行の目的は?

     松本 不妊当事者約5500人にアンケートを取ったら、96%が「不妊治療と仕事の両立は困難」と回答した。正社員だったのに、「治療するなら契約社員になって」と言われた人もいた。状況改善のためには、まずは不妊の現状の「見える化」が必要だと思い、白書発行を計画した。

     ――職場環境改善には何が必要か。

     松本 同僚や後輩が妊娠したとき、「今これ以上人が減ってはいけない」と自分の妊娠を先送りしたことで子どもができにくくなり、不妊治療をする人も多い。結果として離職してしまうのは負のループ。周囲に配慮できる人材を手離すことは企業にとって損失だと発想を転換してほしい。働きながら妊娠・出産・不妊治療ができる環境が求められる。特に治療休暇制度などは企業全体の6%しか導入していない。広がることを望みたい。

     ――治療は高額で、離職すると経済的負担がきつい?

     松本 体外受精には国が補助を出しているが、一定の条件があり、夫婦で年収730万円以上あると適用対象とならない。フランスは、回数の制限はあるが年収要件はない。42歳までは保険が適用される。事実婚夫婦も2年以上同居していれば保険適用だ。

     ――近年、高校のキャリアプラン授業で出産についても学ぶようになっていると聞く。

     松本 あっさり学習するだけでは不十分。「働きながら産みたい」という場合は、生殖についての正しい情報が不可欠。たとえば中学生の性教育授業で、子どもたちが描く自分のキャリアと関連づけて教えるのがいいと思う。知識があれば、出産に関して自己決定権を持ちやすくなるだろう。

     ――治療期間の長期化をどう見る?

     松本 治療をやめられない人が増えている。患者も医療者もやめ時を決めるのは難しい。患者に「もう無理です」と宣告する医師もいるが、諦めない人は別の病院に行く。

     当会には治療の結果、妊娠しなかった会員のグループもある。月に1度の食事会はいつも盛況。初めて参加して「子どもがいない夫婦ってこんなにいるんだ!」と驚く人がいる。身近にそういう夫婦との交流がないと、「子がいない自分」に肯定感を持てず、孤独を感じてしまったりする。できれば若いうちに多様な生き方があることを知ってもらいたい。情報がたくさんあるほど、選択肢は広がる。