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    「搾取だ」「休めない」と怨嗟の声/JILPT裁量制調査/自由記述欄にあふれる本音

     独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)がこのほど、2014年に行った裁量労働制調査の自由記述欄のコメントを公表した。裁量制の適用を「満足」と答えた人からも不平や弊害への懸念が示されている。「不満」と答えた人からは「搾取だ」「ブラック企業を助長する要因」「不公平」「強制労働の逃げ道」などの怨嗟(えんさ)の声があふれている。

     自由記述のコメントは当初の報告書には記載されていなかった。立憲民主党の長妻昭衆院議員の求めで、このほど公開された。

     労働者への調査では、企画・立案・調査・分析を行う企画業務型で「満足」「やや満足」と答えた人が77・9%、専門業務型で68・2%と、満足が多い結果となっていた。

     ただ、自由記述欄では、「満足」と答えた人の中でも「裁量というのは名ばかり」「残業手当の抑制に感じる」「裁量労働手当が少ない」などの不満が少なくない。特に「時間の制限がない分、たくさんの仕事量となり、残業が増える傾向にある」「ある程度の残業をすることが暗黙の認識となっている」と仕事量の多さを訴える意見が多い。経営者への調査でも同様の意見が複数あった。

     一方、「子育てとの両立に大いに役に立った」などの評価する声や、「クリエイティブな仕事をする上で、時間をコントロールできる裁量労働制はストレス軽減に有効」などの意見もある。

     「性善説に頼った仕組み」との意見にもあるように、評価は仕事量の配分や裁量手当、職場環境など、運用の仕方に大きく左右されることが分かる。

     

    ●高まる不公平感

     

     裁量労働制は出退勤を労働者が自由に決められる制度。その趣旨の逸脱を指摘する意見も多い。「タイムカードがある」「毎朝朝礼がある」「毎日8時から5時まで勤務している」。「制度を正しく理解している社員がほとんどいない」と、制度への理解が乏しいまま運用されているとの指摘も目立つ。

     「不満」と答えた人からは「ブラック企業を助長する要因」「ただの残業代減らし」「残業が青天井」「机上の空論」「お金も時間も搾取されている」「強制労働の逃げ道」――と怨嗟の声であふれた。

     不公平感が強いのも特徴だ。「効率的に業務をこなしたところで別の業務を任され、結果的に労働時間が長くなる」「裁量制対象者と非対象者の両方が給料面、時間面で不満を感じている」「業務量が少ない人には得かもしれないが、多い人にとっては不満」。

     裁量制の弊害を指摘してきた上西充子法政大学教授は「経営側にとっては定額働かせ放題なので、成果を出しても評価する必要がない。できる人に仕事が集中し、ますます不公平感が高まる」と話す。

     

    ●高プロ制考える材料に

     

     働き方改革関連法案では裁量労働制の適用拡大は外されたが、裁量制以上に労働時間規制がかからない高度プロフェッショナル制度(高プロ制)の導入は残されている。同制度の導入後を考える上で、自由記述のコメントは示唆的だ。

     過大な業務を押し付けられ長時間労働になる、誤った運用がされる、成果を挙げても収入に反映されず不公平感が募る――。経営者が労働時間を気にする必要がない高プロ制でも十分考えられる事態だ。

     高プロ制は労働者を24時間働かせても違法ではない、と国も認めている。経営者のモラルに頼らざるをえない仕組みといえる。

     法を無視する悪質企業がまん延する今、こうした制度を性急に入れるべきなのか。調査報告時に国が自由記述の公表を避けた理由が透けて見える。