「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    〈インタビュー/高プロ制ここが問題〉長時間労働が野放しに/上西充子法政大学教授

     少し前のことを思い出してみてください。安倍政権は「働き方改革」の名の下で、長時間労働の是正を焦点に議論をしていたはずです。それなのに、国会に提出された関連法案には、是正どころか、助長につながる高度プロフェッショナル制度(高プロ制)創設や裁量労働制拡大が盛り込まれています。同一労働同一賃金や残業上限規制という、聞こえのよい言葉をアピールしておいて、反発が大きいと思われるものを一括でまとめる。とてもひきょうなやり方です。

     

    ●適用対象者は拡大する

     

     裁量労働制については、資料データに問題があり、それがマスコミで大々的に報道されたこともあって法案からは削除されました。しかし、高プロ制はいまだに残っています。安倍政権の強引な国会運営を見ていると、強行採決の可能性もないとはいえません。

     高プロ制は、労働基準法の労働時間規制をほぼ丸ごと適用除外する危険なものです。年収1075万円以上の「高度で専門的な業務」の人のみが適用対象だといいますが、具体的な業務は省令で決めることになっており、今はわかりません。一度導入されればその後拡大されるでしょう。

     経営側は「年収1千万円以上には残業代不払いでいいのに、なぜ800万円には払う必要があるのか」「トレーダーには適用されるのに、エンジニアが除外されるのはなぜか」などと言い出す可能性があります。労働者間でも「不公平だ」という気持ちが生まれ、その分断を政府が利用して、「じゃあ、平等に保護を撤廃しよう」という事態に結びつくかもしれません。

     

    ●残業の記録は残らず

     

     健康確保のためには、適切な労働時間の把握、その記録の保管が必要なことはいうまでもありません。しかし、高プロ制には、そもそも労働時間を把握する仕組みがなく、「健康管理時間」を把握するだけです。長時間労働で健康を害したり、過労死してしまった場合に、労災認定されるのか、不安があります。

     長時間労働が死につながる例を、私たちは高橋まつりさんらの例で見たはずです。彼女たちは死にたくて死んだのではない。長時間労働で判断力を失うまで追いつめられ、死を選ばされたのです。過労死遺族はこの法案に強く反対しています。

     「今国会で働き方関連法案を成立させる必要はない」という世論も高まっています。若者たちに危険性を訴え、反対の声を高めていきましょう。