「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    〈高プロ制ここが問題〉使用者ばかりが得する制度/中村優介労働弁護団事務局次長

     高プロ制について、政府は「柔軟な働き方ができる」とか「成果で評価する制度」などと説明していますが、それは間違った宣伝です。一言で言うと、「いくらでも、好きなだけ労働者を働かせても使用者は割増賃金を払わなくてもいい制度」です。

     

    ●長時間労働させ放題

     

     労働基準法37条は「時間外、深夜に労働させた場合には2割5分以上、法定休日なら3割5分以上の割増賃金を支払わなければならない」と定めています。

     最高裁は割増賃金の基本について、時間外労働を抑制し労働基準法の基本原則を守らせるため、という趣旨の判決を出しています。時間外労働への賃金補償というだけではありません。安易な長時間労働を防ぐため企業が負わなくてはいけないコスト、という位置づけなのです。

     このような労働者保護のルールを破壊し、コストを掛けずに働かせようというのが高プロ制の狙いです。「労働者の健康と権利を守る労基法の網を外し、企業が伸び伸びと長時間労働を命じることを可能にする制度」と言っても過言ではないでしょう。

     

    ●過労死防ぐ歯止めはない

     

     当然、残業が月80時間の過労死ラインを越えて働かせても違法になりません。政府は健康確保措置を定めているから大丈夫と言っていますが、たとえば「勤務間インターバル制」について、義務付けでなく、選択肢の一つにとどめるなど実効性のあるものではありません。

     法案では健康被害などの歯止めついて(1)勤務間インターバル制度と深夜労働の回数制限制度の導入(2)労働時間を1カ月または3カ月の期間で一定間内とする(3)1年に1回以上継続した2週間の休日を与える(4)時間外労働が80時間を超えたら健康診断を実施する──の中から、好きなものを一つ選べばいいとしています。極めて甘い規制内容です。 裏を返せば「健康診断さえ受けさせれば体を壊すような長時間労働を割増賃金なしで命令できる」ということになります。過労死や過労自死が防げるような内容ではありません。

     

    ●成果出るまで残業

     

     政府が言うように「成果で評価する制度」だとすれば、労働者が自由に働けるような印象を受けます。しかし実際には、割増賃金の支払い義務や労働時間把握などの労務管理の徹底から、使用者を自由にする制度と言ったほうが正しい。

     法案では、成果で評価する具体案も書いてありません。何が成果であるかは使用者側が決めるので、労働者はノルマを達成したと評価されるまで仕事を与えられ続けるのです。

     

    ●年収要件はすぐ下がる

     

     政府は、高プロ制の対象者は「年収1075万円以上の一部専門職」と説明しています。

     しかし対象業務について、法案に具体的な規定はなく厚労省が省令で決めることなっています。つまり、法案を一度通してしまえばどの業務を高プロ制の対象にするかを後から決められるということ。経営側の要望で営業職なども高プロ制の対象業務に追加されるという事態も考えられます。省令は厚労省の判断で出せます。国会の承認も要りませんから、事実上の白紙委任です。

     年収要件の1075万円も、国会の承認さえあればすぐに変えることができます。「年収要件を変えるには法改正が必要」と政府は説明していますが、多数与党で強行採決を繰り返してきた今の国会を見ていれば、歯止めにならないことは明らかです。政府がその気になれば簡単に年収要件を引き下げることが出来ます。

     かつて経団連は高プロ制の年収要件を400万円まで下げたいと言いました。とりあえず高プロ制を導入してから、与党が多数のうちに年収要件を下げようするのは、目に見えています。

     「高収入の専門職だけが対象」という政府の説明はほとんど根拠がありません。

     

    ●他人事ではない

     

     「年収要件は簡単に年収400万円まで下がります。対象業務はいつでも広げられます。今までもらえていた割増賃金はなくなります」。これが法案から読み取れる事実です。

     「自分には関係ない」と思っている人も多いでしょうが、こう説明されて高プロ制に賛成できる労働者がどれだけいるでしょうか。

     高プロ制は企業側に一方的に得をさせ、労働者側は何も得るものがない制度です。望ましくない制度であることをきちんと説明していかなくてはなりません。