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    〈インタビュー/高プロ制ここが問題〉ブラック企業に新たな武器/過労死弁護団・玉木一成事務局長

     一定年収以上の専門職について労働時間規制を全て外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ制)」の国会審議が緊迫している。過労死弁護団全国連絡会議事務局長の玉木一成弁護士は過労死の労災認定は確実に難しくなると述べ、「ブラック企業に新たな武器を与えることになる。悪質な企業ほど得する制度だ」と警告する。

       ◇

     過労死の労災認定基準は、発症前の(週40時間以上の)時間外労働が単月で100時間、2~6カ月平均で80時間以上。高プロ制が適用されると、労働時間が記録されず、労災認定が難しくなると指摘される。これに対し、政府は新たな概念である「健康管理時間」(仕事で事業場内と事業場外にいた時間の合計)を指標に労働時間を確認すればいい、と答弁している。

     ――一連の政府答弁についてどう思いますか?

     玉木弁護士 この制度は過労死を確実に増やすということをまず指摘したい。残業、休日、深夜労働の規制がなく、時間配分に関する労働者の裁量も、仕事の進め方を自由に決められる権限も定めていない。4週4日、年間104日の休日を与えること以外に規制は何もなく、使用者は毎日16時間労働を命じることもできる。苦労して労災認定されても亡くなった人は二度と戻って来ない。この制度を作ってはならない。

     法案の「健康管理時間」は労働時間とは別物だ。どれだけ働いたかの立証は遺族がしなければならない。事業場内にいても「仕事をしていなかった」「休んでいた」と言われると、それを覆すための証明には大変な労力が必要となる。

     何より懸念するのは、「高プロ制適用の労働者だから自由にしていた」と労働時間記録を全く残さない事態が起こり得るということ。立証は確実に困難になる。記録を残さないブラック企業ほど得する制度だ。

     法案では健康管理時間の把握の仕方や、怠った際の罰則など、明らかになっていないことが多い。強行採決などとんでもない話だ。

     ――政府はパソコン(PC)のログイン・オフや入退館記録から労働時間を確認すると述べています。

     入退館記録は、警備会社に委託していない多くの会社にはない。委託しても入館のみを記録する会社もある。セキュリティー管理が目的だからだ。

     PCは「データがない」と確信犯的に言い張られたり、初期化されたりすれば、ほぼなすすべがない。ある会社では自分のPCを使用できるのは午後7時まででとし、それ以降は共用PCしか使えないようにしていた。長時間労働を分からなくするため。ブラック企業はいろんなことを考える。

     ――同僚や取引先への聞き取りを行って労働時間を確認すればいいと、政府は答弁しています

     基本的に、従業員と取引先は会社を気にして、本当のことは言わない。仮に協力してくれても、他人が何月何日に何時まで職場にいたと正確に覚えていることは期待できないものだ。「ほぼ毎日午後10時ぐらいまで仕事していたと思う」と話してくれても、そんな曖昧な証言では裁判所も労働基準監督署も認定してはくれない。

     ――政府は労災保険法の規定上、行政は必要な資料の提出や出頭を使用者に命じることができると、野党の疑問をかわしています

     労基署は労災保険の事案で警察のように捜索などの強制措置は取れない。せいぜい資料を提出するよう申し入れてもらうことはあるが、あくまで任意の協力。よほどひどい事案でない限り「PCのデータがない」と言われれば、それ以上突っ込みようがないのが現状だ。

     次に証拠保全という民事上の手段があるが、手間とお金がかかる。それも裁判所は家宅捜索まではできない。

     ――労働時間を立証できず、諦めるケースはどのぐらいありますか?

     感覚的に3分の1から半分くらいか。タイムカードがなく自己申告制の会社は極めて難しい。そして往々にしてそういう職場で過労死が起きる。使用者は企業イメージや損害賠償などを考え、労災申請には非協力的になりがちだ。

     例えば被災者が毎朝7時に早出残業をしていた事案では、会社は「早く出社しろとは言っていない」「パンを食べていた」「ネットで私用をしていた」などと言い、その結果、1カ月当たりの時間外労働時間が認定基準にわずか30分届かず、「業務外」となった。その前の半年間は軽く平均80時間を超えていたのに。そのぐらいシビアなのが労災認定行政だ。残り30分を立証しようと模索していたところ、被災者が毎朝配送の荷物を受け取っていたとの情報を得て、トラック運転手の証言を取るなどし、ようやく裁判で労災を認定できた。

     また、ICデータで残業が記録され、実際に残業代も出ているのに、時間を少なめに申告した出退勤表の時間よりもさらに少なく認定され、業務外決定された事案もある。それでも取っかかりとなる記録があるだけ、まだましな方だ。

     高プロ制で労働時間管理義務がなくなるとどうなるか。過労死は増えるのに、労災認定は減る。ブラック企業を喜ばせるだけだ。長時間労働で無念にも命を落とす労働者と悲しむ家族をこれ以上増やしてはならない。

     

    〈写真〉

     

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    コメント: 1
    • #1

      北高社本やよい (金曜日, 10 7月 2020 09:51)

      夫の事業失敗による返済で離婚がいいでしょうか。