「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    「働く者の命と未来の問題だ」/過労死遺族が野党議員と懇談

     

     過労死被害者の遺族らが5月16日、国会内で野党議員と懇談し、労働時間規制を外す「高プロ制」について、「働く者の命と未来を奪うもの。法案を阻止してほしい」と訴えた。

     

     

     

    〈写真〉夫や子どもを亡くした過労死家族、過労で病気を発症した当事者らが、野党議員に高プロ制撤回への協力を求めた(5月16日、国会内)

     

    地獄の苦しみを聞いて/寺西笑子さん

     飲食店で働いていた夫を過労自死で亡くした。定額働かせ方放題で、責任だけ負わされていた。労働安全衛生法があっても守られない。仕事を前に積まれると、それをこなすために頑張ってしまう労働者の立場の弱さがある。

     残された家族は、労働時間の証明に大変な苦労をする。苦労しても二度と戻ってはこない。「こんな苦しい思いをするのは私たちだけで止めてほしい」と高プロ制に反対してきた。

     衆院で強行採決されそうだと聞いて、安倍首相に面談を申し入れた。「地獄の苦しみを味わった当事者の声を聞いてください」とお願いしたが、いまだ返事は無い。働く人の命に影響する法律を無理に通すという暴挙は絶対にやめてほしい。

     

    最悪の働かせ方生む/中原のり子さん

     19年前に亡くなった夫は小児科医だった。長時間過重労働でうつ病を発症し自死した。夫の働き方は高プロ制のように、労働時間管理もなく、残業代、深夜、休日手当も支払われず、働き方の裁量もなく、力尽きて亡くなった。

     「小児科医は天職」と仕事への誇りを語っていたが、亡くなる半年前には「馬車馬のように働かされている。病院に殺される」と話していた。高プロ制が導入されれば、労働者は馬車馬のように働かされ、利益は会社が吸い上げ、労働者の未来を奪う最悪の働かせ方になる。

     夫は社会に絶望して亡くなった。この働き方をなくしてほしい。強行採決をさせてはならない。

     

    人の命奪う法案撤回を/佐戸恵美子さん

     死んだ子の年を数えてはならないというが、(NHK記者だった)未和は6月26日で36歳になる。亡くなる直前の勤務記録を見て私たち夫婦は驚いた。25時(午前1時)退社・翌午前6時出社――これが1週間続いていた。

     生身の体は壊れる。高プロ制が導入されれば、長時間労働は自己責任とされ、労災申請は難しくなり、死人は増えても労災認定は減る。本人が無念なのはもちろん、残された家族は苦しむ。人の命を奪う法案を強行採決すべきではない。

     現場で働く者の汗と悲鳴を知らない与党・世襲議員たちによって審議入りした高プロ制の撤回を強く求める。「やったことのないこの制度をやってみる」と言うが、人が死んでからでは遅い。

     

    泣き寝入り増やす/工藤祥子さん

     中学校教師だった夫を過労死で亡くした。教師は「給特法」という法律で労働時間管理がされない。亡くなる直前、月206時間もの時間外労働があったと公務災害申請したが、97時間しか認められなかった。「勝手にやっていた」「証拠がない」として当初、不認定になった(2013年に公務災害認定)。

     年間500人ほど教師が在職死しているのに、10年間で公務災害が認められたのは68人しかいない。時間外労働を証明できない、と泣き寝入りしているのが現状だ。皆さんの無念さを思うと本当に悔しい。

     それが(給特法と同様に)労働基準法37条を全部取り払い、働かせ放題を合法化するということは私には絶対に許せない。こういう重要な問題が誰にも知られないまま成立してしまうことはあってはならない。