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    殺人事件で営業中止に/ライドシェアの中国最大手/相乗りサービスの危険性

     中国のライドシェア最大手、滴滴出行(ディディチューシン)は5月12日、サービスのひとつである順風車(ディディヒッチ)の営業を全国で中止した。6日未明に河南省鄭州市で、女性の利用客が遺体で見つかり、行方をくらましていた運転手も水死体で発見される事件が起きていた。被害者は「運転手が変態だ」と車中から同僚にスマホで訴えていた。

     

    ●ウーバーに勝ったが…

     

     滴滴は2012年、配車アプリを介してタクシーと客を結ぶ事業を開始。2年後には素人運転手が自家用車を使うライドシェアも始めた。タクシー事業者は猛反発したが、中国各地で急成長した。

     米ウーバーに競り勝ち、国内市場の8割を占め、年間乗車回数10億回に達すると、運賃を引き上げたため、政府は16年にライドシェア規制に乗り出した。「運転手は営業する都市に戸籍があること」と定めたのは、他市からの過剰な遠征営業を禁ずるため。上海市では、滴滴の運転手41万人の97%がこの新規制に引っかかった。

     順風車は、こうした事態に対応する新サービスだった。同じ方向に向かう客たちに相乗りを提供するもので、都市間も行き交う。運賃が安く人気があり、1日の平均利用者数は全国で200万人。登録運転手3千万人の大多数は、25~38歳の男性だ。

     しかし、アプリに登録された情報とは異なる車両や運転手が実車するケースが多発。運転手たちが、女性客の容姿や体の特徴を露骨な表現で「評価」し合う問題も起きていた。

     河南省で乗客を殺した後に自殺したと見られる運転手は、父親のアカウントを使っていた。セクハラ言動があると、以前から苦情が寄せられていた。

     

    ●日本へも進出予定

     

     滴滴は、同社の顔認証機能に不具合があったことや、この運転手に対する処分が後手に回っていたことを認めた。全ての順風車運転手の身元を再照会しているが、サービス再開後は深夜の営業はやめ、評価システムも改める方針だ。

     滴滴は最近、メキシコで事業を始めたり、ブラジルのライドシェア社を買収したりしている。台湾には地元のタクシー会社と提携する形で進出したが、さっそくライドシェアを始め、規制当局にストップされた。日本では、第一交通産業と提携する予定。中国の大手インターネット企業であるアリババやテンセントに加え、アップル、ソフトバンクが出資する。

     日本では、2年前に衆議院で先輩格ウーバーの安全問題がただされたことがある。海外進出に意欲的な滴滴の安全レベルも五十歩百歩だったことが、今回の事件を通じて世界に示された。(浦田誠・国際運輸労連内陸運輸部会長)