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    労働時評/働き方改善、多彩に広がる/労使でまともな雇用実現へ

     春闘で労働時間短縮や正規・非正規労働者間の均等待遇など働き方改善の動きが多彩に広がっている。春闘63年でも目立った活動だ。背景には「人口減少時代」を見据えた人事制度がある。同時に政府の「働き方改革」関連法案に抗し、野党の対案実現に関わる、職場からの先行事例ともなっている。

     

    ●休息時間保障が増加

     

     働き方の見直しで連合は雇用安定など8課題38項目を掲げている。

     労働時間短縮では、各産別で勤務間インターバル規制の導入が目立つ。終業と翌日の始業の間に一定の休息時間を確保する制度だ。連合集計(5月10日)で同制度導入の要求は308組合(昨年228組合)で、実現は144件と昨年の75件から約2倍に増加。UAゼンセンの18組合をはじめ、電機連合、NTTなどで広がりを見せている。

     働き方改革関連法案で高度プロフェショナル制度(高プロ制)に対しては、撤回と野党の対案実現を求めている。高プロ制は1日8時間の労働時間規制と経営者の刑罰を免除するもの。8週の最初と最後に4日ずつの休暇を与え、連続48日間・24時間労働も容認され、「過労死促進制度」といわれている。法案では勤務間インターバル規制は努力規定にすぎない。

     連合、全労連、過労死遺族などは高プロ制の削除を要求し、立憲民主、共産党などは欧州で法制化されている「連続11時間の勤務間インターバル規制」の対案を提起した。春闘の成果を踏まえ、労基法に義務化を明記すべきだ。

     全労連などは残業上限月100時間未満までの「過労死ライン」を容認する特例の削除も要求している。

     

    ●安定雇用で人材確保へ

     

     働き方の改善では人口減少時代を見据えた雇用人事制度の具体化も目立つ。

     人材確保や人材流出防止では、有期雇用労働者の無期転換を各産別とも重視。連合集計では要求1222組合(昨年624組合)で、実現は689組合と昨年の57組合から約12倍に増加。UAゼンセンは無期転換をパートで277組合、契約社員で115組合が労使確認している。ヤマト運輸はフルタイムの有期雇用ドライバーなど約5千人を正社員に登用した。

     仕事と育児、介護、治療の両立支援策などが目立つ。電機では初めて治療支援制度を要求し、時間単位で有給休暇の取得を実現した組合も見られる。

     定年退職後の再雇用では、連合集計で634組合が要求し、258組合が実現。基幹労連は60歳以前の賃金原資を削ることなく、65歳への定年延長へ労使合意した。UAゼンセンも、イオンなど8組合が65歳定年延長を実現している。私鉄総連も定年後再雇用者の賃上げ、福利厚生の改善を獲得。全労連加盟のJMITUでは再雇用者について2万2500円の賃上げを実現した。

     

    ●要求は正社員と同一基準

     

     雇用形態や男女間の同一労働同一賃金制の実現に向けた労働条件の改善も進み始めている。

     連合集計では、一時金支給の改善要求559組合をはじめ、社会保険加入、教育訓練など延べ2485組合に及ぶ。男女間格差是正も538組合が要求し、88組合が実現。UAゼンセンは「人手不足と格差是正、働き方法案制定への準備」として同一の賃上げ基準で要求し、パート労働者の時給引き上げ率は正規を上回る。JR連合の西労組も同一労働同一賃金の検討を労使合意している。

     同一労働同一賃金は働き方改革法案では、労働契約法、パート労働法、派遣法の改定によることとなるが、法案に「同一労働同一賃金」の文字はなく、転勤の有無など人材活用の仕組み次第で格差も容認される。野党は「合理的でない格差禁止」(立憲)、「同一労働同一賃金と均等待遇」(共産)を法律に明記するよう求めている。

     

    ●「逆均等待遇」是正を

     

     働き方改善の項目は多様だが、検討課題もある。

     経団連などは「総額人件費管理」のもとに、定昇、ベア、一時金、各種手当など「多様な賃上げ」を狙っている。回答の分散化に対し、ベアを重視した働き方改善が重要となる。

     トヨタはベア額を非公開とし、総合職の自己研さん費用の補助、高齢者、非正規労働者の家族手当など、経団連の指針を実施している。

     日本郵政は期間雇用社員の処遇改善で年始勤務手当や夏季、冬季、病気休暇の取得を認めた。一方、正社員だけに適用される年末手当や住宅手当は廃止し、ベアもゼロ。均等待遇では欧米のように処遇引き下げ禁止の法規制も必要だろう。

     

    ●労働協約拡張適用も

     

     連合は「人口減少・超少子高齢化社会ビジョン」の最終報告を6月の中央委員会で確認する予定。2035年に向けた、運動と政策の羅針盤となる。

     15~64歳の生産年齢人口が大幅に減少する原因は育児・介護などを家庭責任とした「日本型福祉社会」にあると指摘。めざすべき社会像として「働くことを軸とする安心社会」へ働き方・家族・教育など五つの制度整備を展望する。

     期間の定めのない直接雇用を原則とし、労働時間の短縮や均等・均衡待遇、仕事と生活の両立を重視。労働組合の社会的影響力を強めようと、運動への参加と支援者の拡大、組織化、労働者保護と労働協約の拡張適用を掲げている。

     人口構造の変化と、人口知能(AI)など急速な技術革新を見据えた働き方と労働運動再構築への挑戦として注目される。(ジャーナリスト 鹿田勝一)