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    道徳教科書に潜む歴史のわい曲/「中学校道徳」教科書展示始まる

     中学校の道徳の教科化が来年度から全面実施される。文科省は3月末、検定に合格した教科書を発表。LGBT(性的少数者)への理解やSNSのマナーなど、同時代の問題を取り上げる一方、歴史認識をねじ曲げるような内容も見受けられる。ナチスドイツの迫害から逃れるユダヤ人にビザを大量発行した外交官、杉原千畝のエピソードだ。

     

    ●歴史修正主義も

     

     中学校の道徳は4区分22項目で構成されている。国際理解、国際貢献の項目では、杉原千畝を8社中6社の教科書が取り上げた。そのうち1社が「当時の日本の外交政策を生徒が誤解する恐れのある表現」として検定で修正を促され、応じた。同じ内容の修正は前年の小学校の教科書検定でも2社で行われた。

     修正があったのは、杉原千畝がリトアニアのカウナス領事館に押しかけたユダヤ人の代表に対し、日独防共協定のため、ビザを出すのは難しいと説明した箇所だ。検定では「数人分のビザならば発行できるがこれほど多勢の人たちに出すのは難しい」という表現に修正された。

     杉原千畝の学習ページは、妻の杉原幸子が夫の手記と自身の記憶に基づいて書いた「6千人の命のビザ」の第1章を短く編集したものだ。同書には「ビザの大量発行は外務省の許可が必要で即答できない」とユダヤ人代表者に答えたものの、夜も眠れないほど苦悩する杉原の様子が描かれている。妻は、日独防共協定の下でユダヤ人の移動規制が始まっており、ビザ発行がドイツへの敵対行為になるため、という真の理由を記している。

     当時の政府がドイツへの敵対行為にならないよう、ビザ発行を厳しく制限したことは、在欧州の大使と外務大臣との電報などで明らかだ。

     ビザ発行規制の前提となる政治的経緯を削除する検定は、ナチスドイツと協力してユダヤ人を排斥した日本の歴史から目をそらす。検定による修正では政府の非人道的な方針と自らの良心の間で葛藤した杉原の心の動きが分からず、道徳教科書としても問題があるとの指摘もある。

     

    ●採択前の展示会を生かす

     

     検定合格教科書は法律で定められた展示会で閲覧可能だ。各自治体の教育委員会で6月15日以降、2週間程度開かれ、自治体によっては移動展示なども行われる。

     法定展示会とは別に、合格前と後の教科書、検定意見による修正とその原文なども含めた検定結果の公開は全国7カ所で5月29日からはじまり、公開期間終了後は2カ所で通年公開される。

     同じ学習項目でも教科書にはそれぞれ違いがあり、筆者や編集者の工夫が凝らされている。展示会は教育委員会の教科書採択前にどのような教科書があるのかを知る貴重な機会。地域での議論に生かしたい。